会員登録/ログイン

残り香

01

 
「ちょっと、待って!」


グイッ。
そんな音がしそうなほど、紀紗【キサ】は強く肩をつかまれた。


「紀紗だよね?」


知人かな?
紀紗は顔を上げ、腕を掴んだ人の顔をじっくりと見る。
その人の顔には、紀紗が高校生だった時の想い人の面影があった。ぎゅぅっと、胸が苦しくなる。


「もしかして、純平【ジュンペイ】?」


純平はにっこりと笑い、頷いた。
記憶と寸分も違わない、穏やかな微笑み。


「ひ、さしぶりだね」


「本当に、久しぶり。久しぶりついでに、寄っていかないかい?」

純平は、くいっとそばにあった喫茶店を指差した。
紀紗は、あまりにも変わらない純平に動揺する。
………違う。変わらない純平に動揺したんじゃない、また、あの感覚が戻ってきそうなことに動揺をしたんだ。
それでも、やっぱり。純平のことは吹っ切れたから、と紀紗は思う。切なくて、甘酸っぱい想い。
同時に、懐かしさを感じる。
あの時とは少し違う想いに安堵する。
彼のことは今でも、愛しいし大切だけど、これは過去の感情。あの焦げ付けるような想いがない。


「じゃあ、行かせてもらおうかな」

/4ページ 

週間ランキング