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忘れられない記憶

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 香澄 清隆(カスミ キヨタカ)26歳。システムエンジニアとなって二年。会社ではまだまだ新人の域だが、チームのトップの計らいで中堅の仕事を任されている。
 やり甲斐のある仕事。
 趣味に打ち込む休日。
 初恋の人と別れて以来、恋人はいなかったがそれでも充実した日々を送っていた。


「香澄さん、あ、あの、一緒のフロアで働くようになってからずっと見てました。香澄さんの事が好きです!」
 目の前に現れた小柄で可愛らしい女性が顔を真っ赤にして想いを告げてきた。
 この会社に勤め始めて幾度目かの告白。
 僕の顔は特にイケメンと言われるものではない。かといって崩れている訳ではなく、可もなく不可もなく中の中、並の並な平々凡々な顔。性格だって良い方ではないと思う。なのに、皆、僕のどこが良いのか今までもそれなりに告白されてきた。
「ごめん…。君の気持ちには答えられない」
 今までされた告白全てに返した言葉。この言葉で諦めてくれればいいのだが、稀にくいついてくる子がいる。
「なんでですか?誰か好きな人とかお付き合いしている方がいらっしゃるんですか?」
 この子も見かけは儚げですぐにでも泣いて立ち去るかと思っていたが、意外にも芯が強いのかくいついてくる。
「うん。忘れられない人がね、いるんだ」
 八年経った今でも忘れられない人が。
「なら、私が忘れさせてみせます!」
 この言葉を聞いて、この子は自分にとって嫌な人間に分類された。
「君が…?無理だよ。君が敵うような人じゃないから」
 そう言い残して僕はその場を去った。きっと、あの娘も泣いているだろう。それだけひどい事を言ったとわかっているが、止められなかった。それだけ言って欲しくない言葉だった。


 その次の週末、僕は地元が一望出来る丘まで車を走らせた。小高い丘に着くと車を停めて丘と町を見守るように伸びる大木に縋るように腰を下ろした。
 そこから自分の育った町を見下ろすと過去の記憶の中でも一際色濃く残っている高校時代の記憶が蘇る。その一つ一つを順を追うように思い出せば涙が溢れてきた。
 ぽろぽろと溢れてでるそれは、回想が終わっても暫く流れ続け、全てが落ち着いてすっきりする頃には空が茜色に染まっていた。

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