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修学旅行 旅館 ①

「誰か好きな奴いないのか?」

 誰もが当たり前に話す恋愛や、憧れの話しが自分にはひどく遠い存在のように感じていた。
 『感じていた』というのは正しくはない、過去形ではなく現在進行形で遠い存在だ。
 だからだろう、そういう話しが始まると話しの輪から外れるようになった。
 自分がそう言う感情を持っていないという疎外感を感じて自然と離れる。

(気にする必要もないのかもしれないけど……な)

 そう思うが、そういった話しをしている同級生達は男女問わずに活気に満ちているように見える。
 自分が何かが欠けている人間だと自覚しているからだろう、周りの人間との間にガラスのような透明な壁があるように感じてしまうのは。

(人に対する好意や、嫌悪は分かるんだけどな……)

 俺、御崎巧は部屋の中央で車座になって、誰が好きだの、誰の胸が大きいだのと言い始めた同級生達を尻目に部屋を出る。
 同級生達が集まって恋愛談議を始めた大部屋から出て、廊下にある自動販売機の前にある休憩所の椅子に座って暗くなった窓の外を見ながら心の中でごちる。
 誰かを好ましいと思うことはあるし、その中に女性ももちろんいる。
 だけど、その好意は親しい友人に向ける好意と変わらないし、異性に対しての好きかと問われれば違うだろう。
 そもそも異性に対する好きというものが理解できない。
 心のどこかに大きな穴が空いていて、本来あるべき心がないそんな感じがする。
 つぎはぎだらけで、どこまでもいびつな心を抱えていると思う。

「楽しい修学旅行に来て、何をため息などついているのかな?」

 何が原因でそうなったのかを考え、結局分からずにため息をつくといきなり声をかけられる。

「悩みがあるのなら、私に話してみるといい。聞くだけ聞いてあげよう」

 続けてそう言って、自動販売機でジュースを買ってから隣に座る。男のような話し方をしているが、れっきとした女だ。
 風呂上りらしく浴衣を着ていて背中の中ほどまである髪も少し濡れている。

「別に悩みなんてない。それより、ちゃんと乾かさないと風邪引くぞ」

 隣に座った少女を見てから少し気になった事を口にする。
 その言葉を聞いても特に気にする事もなく、隣に座った少女はプルタブを引いてジュースを飲みながらこちらを見る。

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