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願いのカケラ

願い

 ゆきえが最後に独りで見た景色は、夏の日差しに照らされた道路、蒼く色づく若葉、白く輝く入道雲、そして自分に覆い被さってくる大きな影だった。

 その日、ゆきえの自由が死んだ。意識はあっても、体はもう動かせない…。自分がトラックに引かれたと知ったのは、事故から一週間後、病院のベッドの上だった。その時から、ゆきえの人生と、ゆきえの兄である健の人生が大きく変わった。

 事故から14年、今のゆきえは、健の助けなしでは何もできない。ゆきえが、もう動けないと知ってから、健は妹の介護のため、仕事を変え、婚約者との結婚をやめた。健は、妹の助けになれるならそれでよかった。14年間、後悔などしていなかった。そんな兄の思いとは裏腹に、ゆきえは(早く死にたい)と、いつも思っていた。自分の人生だけでなく、兄の人生まで奪った自分が、何より許せなかったからだ。願いを叶えてもらえるなら、神でも悪魔でもよかった…。

 雨の強い日の夜中の事だった。ゆきえは急に目が覚めた。やけに周りが静まり返っている。雨の音も聞こえない。その時だった、静けさを打ち消すように声がした。
「動けるだろ、起きなよ。」
ゆきえは驚いて声をあげた。すると
「叫んでも誰も来ないよ。時間止めてるから。」
ゆきえは、必死に自分を落ち着かせて、ゆっくりと起き上がった。
「やぁ。」
そう言って、ゆきえの前で、少年が手をあげた。ゆきえは少年に尋ねた。
「あなた誰?夢なの?」
少年が答える
「夢じゃないけど、まぁ似たようなものかな。」
「あなたは誰なの?」
ゆきえはもう一度尋ねた。
「俺?俺は管理者だよ。時の流れと、そのなかで起こる事象を管理してる。」
「神様?」
ゆきえは分けがわからず、そう聴いた。
「違うよ。神とか悪魔とか、そういう分類じゃない、ただ、時を管理してるだけ。」
「そんな人が、どうして私の所へ?」
「ああ、悪いんだけどさ、あんた生きてちゃ駄目なんだよねぇ。本当は事故で死んでるはずだったんだけどさ、俺、ミスちゃってさ、そのせいで、時の歪みが大きくなり始めてるんだ。でも、過去を変えたら変えたで面倒な事になるからさ、そこで、あんたに相談があるんだ。」
ゆきえは、動揺することなく聞き返した。
「相談って?」
「あんたの命を貰う代わりに、4日間だけ自由を返してあげる。そして、4日間のなかで3回だけ俺が時の流れを歪めてあげる。」
「時の流れを歪める?」
「そう、つまり願いを叶えるって事、それでどう?ただ死ぬよりいいと思うけど。」


 止まった時の中、管理者の少年は静かに言った。

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