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君のヒトミに映るセカイ.

桜の木の下で。

「……すけ、佑介!」



いつもと変わらない、穏やかな朝日に照らされた部屋に、微かだが母親の叫び声が谺する。




「ん…んぅー……」



聞こえてくる声が耳障りに感じ、肩までかけていた布団を頭までかぶった。


若干の息苦しさはあるけれど、睡眠を妨害するものを遮られるのなら構わない。



微かに目覚めつつあった思考を断ち切るように重くなっていく瞼に逆らうことなく、再び眠ろうとした俺の耳に、部屋の扉を開く音と同時に母親の怒鳴り声が響いてきた。




「いい加減にしなさい! 今日は入学式でしょうが」




"入学式"。



その単語を耳にした俺は、慌てて起き上がった。


そう…今日は高校生活を始めるにおいて、最も重要な日である入学式。その当日なのだ。



そんな大切な日に、まさか俺は寝坊してしまったんだろうか…!?




「か、母さん。いまっ、何時…?」



「八時半前よ、早く着替えなさい!」



「はいいっ」




母親の叱責を受け、悲鳴じみた声を返事に布団から出る。



普段から枕元に置いている携帯電話で、昨夜確かにアラームを設定しておいた筈なのに…。



まずは着替えが先だと、僅かに湧き出す疑問を無理矢理追い出しクローゼットに駆け寄った。




今の季節は暖かいから、上半身は何も身に付けずに寝ている。


クローゼットを開いて、真新しいYシャツに露わになっている腕を通す。



はいているスウェットを乱暴に脱ぎ捨て、次いで手に取った見慣れた黒いズボンに片足を通しかけたところで、背後から母親の驚きの声が上がった。




「ちょっと、それは学ランのズボンでしょ」



「へ…? ぅうわっ、ほんとだ」




目の前のクローゼットを見上げるとYシャツ同様、まだ皺一つない、チェック模様のズボンが掛けられていた。



深緑を基調とした制服は、半年前に見たあの森の写真とどこか似ているような気がして、なんだか不思議な感じだ。




「さんきゅ、母さん……って」



はきかけた学ランのズボンを再びハンガーへ掛け、新しい制服のズボンへ手をかけた時…ふと気付いて背後を振り返る。

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