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霧幻鏡

月下の泪

宵の闇が深くなった刻限、大きすぎる屋敷からはちらほらと灯りが消え始めていた。そんな時でも、最後まで灯りの灯された窓があった。


その窓は最上階にあり、ある意味他の部屋よりは無駄にでかい。

その部屋の主は、あの傍若無人の御方である…。


彼は、かなりの傍若無人さだが、仕事はきっちりとこなすという意外性を兼ね備えていた。彼は、いつもたった一人、みんなが寝静まった後でも仕事をしていた。

彼が眠りに就くのはゆうに朝方とも呼べる時間帯であった。


「……ふぅ……」


彼は、小さく溜め息を吐くと、両腕を頭上に上げ、肩の筋肉を伸ばした。これが休息の始まりの合図。それを横目で確認し、すぐに部屋の中に取り付けられた給油室へと向かう一人の青年がいた。
今、この空間には二人しかいない。


「……なぁ…」

椅子に座りながら青年に声を掛ける。小さくも、二人しかいない空間では、さほど聞き逃す事もない位の声色。それに反応する青年は、首だけを声の主に向けた。

「はい?」

そう短く返すと、視線は交わらせず、只静かに何もない空間を見つめていた主は、また一つ溜め息を吐き、疲れきった顔で口を開いた。

「……戦争…終わると思うか…?」


ゆっくりとした口調で言われたその内容に、最初こそは何を言われたのかが判らず只呆けた。そんな反応を示す青年にも目もくれず、寧ろ応えなんか期待してもいないかのようにポツリポツリと話始めた。


「…戦争とは何だ?私達がやらねばならぬ事は何だ?」

「………」


主が話す事は総て、疑問系ばかりだった。それでも青年は只ひたすら無言で、主の話に耳を傾けながら主の紅茶を煎れていた。その間も話し続ける主…。

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