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思わぬ天使

始まり

雪が降ったのを覚えている。

それは僕が失恋した数分後だった。スターバックスのカフェモカをベンチで飲んでいた時に誰かが雪だと騒いでいた。薄灰色とも何とも言えない澱んだ空を見上げてみると確かに僕の鼻先に冷たい物が触れた。それは緩やかに何粒も僕の体に触れては消えていたようだ。

僕は動けなかった。
失恋したという事実から立ち直れなくてずっと逡巡していた。
そうしていると僕の隣に男が座った。
今の流行りとは何処か違った無造作とも言える髭面で熊のようながたいの良い男は溜息をつくと煙草を取り出して火を点けた。

たゆたう煙が僕の方にまで流れてきた。苦みが鼻先を掠める。
僕は泣けてくる思いをもう一度心に仕舞いカフェモカに口をつけた。男はがたいの良い背中を丸めて煙草を吸いながら携帯をポケットから取り出しカタカタを音を鳴らしながら頻りに打ち込んでいた。それが気になって僕は時折チラりとその行動を目にした。

だが、急にその指が止まった。悩んでいるのだろうか。若しくは諦めたのだろうか。その間が逆に気になって思いっきり男を見た。すると、髭面の男は警戒することもなく視線を合わせた。
そして不意に言葉を掛けてきた。

「今日、彼女の誕生日なんだ。」

動揺した。
まさか声を掛けられるとは思っても居なかったから返答に困りはあ…と言うだらしのない返事をしてしまった。

「でもね、出ないんだよね。都合が悪いのかな?」

僕の返答は悪印象を与えてはいなかったようだ。でもまだ返答に悩んだが「それは大変ですね」と返した。

男は苦笑しながら煙草を吸って煙を吐いた。だがそれは弱々しく紫煙はすぐに消えた。

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