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続 かまくらけ

ミッドナイトフライト

成田空港。中学2年の正月に行った家族旅行、昨年秋のサンパウロに次ぐ三度目の出国。

手続きの勝手は覚えていた。親任せの今までとは違う。これから社会人になるのだ。
 
初めて締めたネクタイは窮屈だが、叔父に買ってもらったスーツは気に入っている。すれ違うビジネスマン風の大人たちの中に混じっても何ら気後れすることはあるまい。

「頑張ってね、お兄ちゃん。」
「ああ。」
「くれぐれも健康には気をつけるのよ。」
「ああ。」
 
妹の佳奈は、初めて住まいを別にする自分に対し、一抹の寂しさを覚えているようだった。頑なに笑顔をつくりながらも、しきりにハンカチで目頭をおさえていたものだ。

母の初江は、成長した息子を誇らしげに見送ってくれたようだった。いつもなら、たくさんの言葉を並べるところを、にっこり微笑むだけだった。

祐一は、サンパウロへ向かって日本を発つ。次の帰国がいつになるかはわからない。しかし、、不安など皆無である。これから始まる新しい生活に、胸が膨らむ思いであった。

エアポート、搭乗、アテンダントのアナウンス。

窓側の席はラッキーだった。
離陸。いよいよだ!

夜のフライトゆえ、窓の外は真っ暗だが、数時間眠れば到着することだろう。

しかし、興奮しているからか、まったく眠気はさしてこなかった。

鞄から一枚の色紙を取り出す。

祐一、三年間ありがとう。いい夢見れたぜ!!

いつかまた一緒に球を蹴ろう。

来年、必ず僕達がリベンジします。

後輩の寄せ書きに目が止まる。リベンジ・・・。

全国大会決勝戦。高校三連覇を目の前にした祐一の最後のシュート・・・。

難なく県予選大会を突破した祐一の高校は、国立競技場での決勝戦に駒を進め、全国の高校サッカーファンの注目を浴びる最後の一戦を迎えていた。

祐一にとっては、中学三年の時から積み重ねた全国大会四連覇という大偉業がかかった試合でもあった。

大方のマスコミの下馬評では、祐一率いるチームの圧倒的有利・・・経験地、総合力、充実度。どれをとっても対戦相手より一枚上といったものであった。

しかし、試合は予想外にもつれにもつれた。エースの祐一は敵のディフェンダーに徹底的にマークされ、思うようないつものパフォーマンスを見せることができない。

それは、その日に限ったことではなかったが、執拗なディフェンスに祐一は手をこまねいていた。

両チーム無得点のまま後半戦に入り、スタンドの観衆のざわめきはおおきくなるばかりであった。

そして遂に、祐一にチャンスが訪れる。ペナルティエリア内でドリブルをしていた祐一への、後部からの危険なスライディング。審判のホイッスル。

ペナルティーキック。蹴るのはもちろん祐一だ。

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