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つづくかおり

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 小さな頃、私は少しのことですぐに泣くような子供だった。転んで泣いて、からかわれては泣いて。
 そうしてその度に、母が抱き締めて優しく頭を撫でてあやしてくれた。ゆっくりと頭を撫でられ、母から香る薫りに、気持ちを落ち着かせたのだ。
 大きくなって、泣くことはあまりなくなった。もちろん、母にあやされることもない。子供の時には出来なかったことも、今なら出来る。

「あー、手が荒れちゃった」

 こうして家事の手伝いをして手が荒れることもある。片してあったハンドクリームを取り出し、手につけた。
 刹那、鼻先を掠めた懐かしい薫りに、瞳を丸くする。

「この匂い……」

 昔、母から薫った匂いと全く同じだった。あの頃は香水の匂いだと思っていて、小さな私はそれを羨ましがっていたのだが。
 昔の自分の思考にくすりと笑んで、私はハンドクリームを片す。
 いつか私もこの手で、子供を抱き締めようと思った。

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