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レイニー

それは週末、土曜日、雨の日で。
僕は濡れて、宿って、堪えてた。



レイニー



「びしょ濡れだね。」

バス乗り場の小さな屋根の下でどうしようもなく途方にくれていた僕は、それが自分に向けられた言葉だとは気付かず、隣に立つ彼がひょいと僕を覗き込みながらもう一度「びしょ濡れだね。」と繰り返したのに対して、「はぁ。」と気の抜けた返事を返すことしか出来なかった。

「はい、どうぞ。使って?」
差し出されたタオルハンカチを受け取っていいものか躊躇う僕に「どうぞ。」彼が繰り返す。
同い年、くらいだろうか。
どうも。と受け取ったものの、見ず知らずの人から借りたタオルでどこまで拭いて良いものか分からず、遠慮がちに袖口をポンポンと叩くように拭いた。すっかり雨を吸い込んでしまった布なんて拭いても変わりないのだけれど。本当は顔を拭きたい。髪から伝う滴が目に入り不快なんだ。

「頭とかさ、顔とかさ、ガシガシ拭いちゃって。」
僕の頭の中が見えたかのような言葉にびっくりして思わず彼の顔を見上げた。
にっこり微笑んでいる彼の顔が眩しくて。僕は、ありがと。と、小さく呟き目を逸らした。

タオルで顔を拭うと、柔らかなパイルの肌触りと、清潔な洗剤の香り。それが彼の優しさをそのまま表しているような気がして、与えられた暖かい気持ちに触れたら堪えていた涙がついに溢れ出した。

タオルを握り締めたまま、崩れ落ちるようにしゃがみこんだ僕の横で、彼が同じようにしゃがむ気配がした。

「あのね、何でこんな1日中雨の日に傘を持たずにいるの?とか、何でさっきのバスに乗らなかったの?とか、あと……、何で、その、泣いてるの?とか。色々聞きたかったんだけど。やめておくね。」

穏やかに響く彼の優しい声が僕のはち切れんばかりにいっぱいいっぱいだった心の殻を溶かして破ってしまった。
しゃくりあげながら泣く僕に、彼は何も言わず付き合い続けてくれた。

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