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Scarlet Sword

プロローグ

プロローグ

 世界が霞む。

もやがかかっているとか、霧がかかっているとか、そういった感じではない。

ただ、霞む。

世界自体が朧気(おぼろげ)に見える原因が自身の目のおかしくなったからではないかという思考に至ったのは少しした後。

「ごめんね」

静かに述べられた言葉が不意に耳に届く。

仰向けになった僕に、その人の像が映りこむ。

だが、やはり霞む。

“誰?”

声にすることどころか、口を開くこともつらい。

だるさが体中を支配し、瞼(まぶた)を開いているのがやっとの状態だ。

ぐったりと力の抜けた僕の体に、その人は体を預けた。

髪の毛から漂ってるのだろうか、ほのかに甘い匂いが僕の鼻腔(びくう)をくすぐる。

徐々にかかるその人の重みが僕にまだ感覚が残っていることを告げ、同時に、伝わる体温と吐息のほのかな温もりが静かに最期というものを感じさせる。

「…?」

僕はもたれかかってきたその人の顔を確かめるために半身を起こそうとした。

しかし、動かない。利き腕に力を込めようとするも、何の応答も腕からは返ってこない。

感覚がまるでない右腕に視線をやるが、やはり霞む。

そこに腕はあり、何かに押さえつけられてるわけでもなさそうだ。

よく目を凝らしてみる。

徐々に焦点が合いはじめ、映像が明瞭になった。

感覚がないのも腕が動かないのも当然。

なんせ腕は肩からその接続が分断されていたのだ。

「―――――っっっっっ!!!!!!」

声にならない叫び。

状態が判明した瞬間、今まで脳が遮断していた情報が頭を駆け巡る。

似たような痛みが、程度の差はあれど体中から伝わり始め、許容を超えた痛みの信号に、言葉を作ることなく口は宙を噛み、息は声になることなく、ただ洩れる。

僕は助けを求めるように自身に体を預けていた人物に目を向けた。

「大丈夫。すぐに終わるから」

微笑みと一緒に向けられたその言葉。

何が大丈夫で、何が終わるのか。

痛みの炸裂するなか、再び霞み始めた視界のなかで思う。

「『機会があったら』また会いましょう」

その女(ひと)はそう呟いた。

ここで終わるかもしれない人間に機会なんて訪れるだろうか。

薄れた意識で疑問が浮かぶ。

「…」

視界の女性が動いたように思えた。

右手に何か持ったらしい。

大きく振りかぶるような動作をしたその手には、鈍く光る銀色のモノ。

「―――」

その手が振り下ろされた直後、僕の意識は堕ちて消えた。

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