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Andante

序章:Adagio-01

 今日も窓際の自分の席から校庭を見下ろす。
 昼休みだっていうのに練習に励んでる運動部の連中。
 校庭じゃなくてもいいんじゃね?と言いたくなる井戸端会議中の女子たち。
 ――そして、ガキみたいに無邪気にサッカーで遊んでるヤツら。

 その輪の中で大して積極的に動きもせず、たまに良いとこだけ取って女子の喝采を浴びている長身の男。
 モデルみたいな顔立ちにスラっと伸びた足。運動部に所属してるわけでもないのに運動神経が良くて何でも器用にこなす才能を持っている。学年に一人はいるアイドルみたいな存在だ。

「何してるの?」

 突然ポン、と肩を叩かれてやましいことをしてたみたいにビクンと大きく身体が揺れる。
 振り向くと同じクラスの佐藤亜梨紗がニヤニヤしながら立っていた。
彼女は俺の肩に手を置いたまま外を覗いて「ふーん」と、言うと椅子を引いて俺の前の席に座った。

「チアダンス部のミニスカート見てるの?やーらしー」

 ニヤけ顔のまま俺の頭を小突く。
 大人びた綺麗な顔をしているくせに精神年齢は小学生並みだ。こんなヤツに夢中になる男どもの気が知れない。
しかも俺が何て答えるか分かってて言ってるんだから性格もこの上なく悪い。

「ンなの見るわけないだろ。黒崎見てたんだよ」

 言いながら、自分の顔が少し赤くなるのが分かった。
亜梨紗はニンマリ笑って知ってるわよ、と外を見る。



 黒崎歩。

 その存在は入学式が始まる前から知っていた。
女子たちが隣りのクラスにすごくカッコイイ男子がいると騒いでいてどんなヤツだろうと思って見に行ったら、噂通りの半端なく顔もスタイルもいい男で。
初日だからとみんな遠慮がちな髪の色にしてるのに、一人だけ当たり前のような顔して金髪にしていたのが強く印象に残っている。

 高校に入って二ヶ月目、見かけるたびに何となく目で追っていたのが、そのうち自分から視界の中に彼を探すようになっていて。
俺もしかして好きなんじゃないかなって思い始めたのは高校に入って三ヶ月目、つい数週間前のことだ。
 人気のある男子を目で追うことがあっても、それは恋愛対象としてではなく芸能人に対するそれと同じで単なる目の保養目的でしかない。ある程度親しくなって相手のことを知って、それから好きになるのがいつものパターン。
だから、一度も話したことのない黒崎を好きになるなんて例外中の例外だった。

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