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溺愛される上司 【R18】

『別れましょう』

脳裏というグラウンドを休みなく走り続けるその台詞のせいで、自分にかけられた言葉に一瞬、反応が遅れた。


隣に座る同僚に腕を強めに叩かれ、そこではっと気が付いた。
左側に刃のように鋭い視線を感じる。冷や汗が背中を伝った。

「……加納、寝ているのか」


部署内の温度が、一気に下がった。
自分の名を呼ぶ声音があまりに冷やかすぎて、夏なのに冷房は不要だな、などと思わず意識の底に現実逃避しそうになる。
慌てて自分の膝を拳で叱咤して立ち上がった。


「すみません、寝ていません!」


出来立てほやほやの記憶に脳みそが乗っ取られてはいたけれど。
包丁よりも切れ味のよさそうな目つきで、新川主任が「ちょっと来なさい」と俺を呼んだ。
その手には、俺が数十分前に提出した報告書が。


主任に名指しで呼ばれる場合、その大半が注意か叱責しかない。よって、同情の視線が俺に集まる。
その視線をあえて無視して、席を立ち主任のデスクに向かった。


資料の類で、主任のデスクは乱雑としている。
次から次へと舞い込んでくる仕事に、整理している余裕もないのだ。
整理したいなと若干、うずうずしながら主任のデスクの前に立った途端、投げるように報告書を突き返された。


そして一言
「やりなおし」


俺を見つめる目は冷ややかで、反論したくてもできない。いや、もとより新人に反論の自由などないのだ。
一時間かけて作ったのにそりゃないよと言いたくても、有無を言わさないオーラを発されては、すごすご引き下がるしかない。


「わかりました、すみません」

会釈して顔を上げた時、主任の視線は既にパソコンの画面に向かっていた。俺を見ることはもうなかった。

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