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煙の羽根

ほうき

日暮れの丘を、白い毛並みのシルスが通りかかった。

「お… またやってるな」

シルスの視線を追って行くと、その先には今日も空中飛行の練習に勤しんでいる、リロがいる。

『空中飛行』と、豪華極まりない言葉で綴ってしまったが、彼は今まで一度も飛べた事など無かった。

体がほんの数センチでも浮いてくれれば大変嬉しいのだが、練習方法が悪いのか、毎日毎日これに明け暮れている割には、皮肉な結果となっている

「あ― また転んでるよ…」

遠くから微笑むシルス…。



事の初めはこうだった。

リロのひい祖母はかって魔女の血を引いていたらしく、古いほうきを倉庫からこっそり持ち出して来たのだった。

「よしもう一度、今度はこっちの坂を一気に駆け下りれば…」

たった今、お決まりの呪文を唱えながら、坂を駆け下りて行ったリロ。

今度は、かなり急な坂を利用しようと試みたが、結果は同じ…

「頑張ってるなリロ…」

「あっ シルス兄ちゃん!!」

シルスの存在に気づいたリロは、笑みを浮かべて近寄った。
まだ、見慣れてからも浅い彼らは、最近この地へ来たばかりのシルスにとってリロは始めての友達だった。
だが、彼と会えるのも今日限りになるだろう。
シルスは遠い旅に出るのだから…

「どうだ?少しは浮きでもしたか?」

「ぜーんぜんだよ でも、諦めないぞ…」

意気込んだリロに歯止めは効かない。

彼は幼少ながら、努力家だった(単なる変わり者の様なきもするが(汗)

ほうきにまたがり、、訳の分からぬ呪文を唱える姿は至って不格好。
見かけた者は思わず吹き出してしまうだろう…

それでも、空飛行とは、彼の何よりも夢だった。

「まぁ、頑張れよ」
「うん」

笑んでいる幼顔は、夢その物を追いかける“それ”だった。
その笑みの中に、シルスもまた、自分も夢を追っていた幼少の日々を遠く想った事だろう……。

シルスは家路につき、その場を離れてゆく。

「シルス! 渡したい物があるから、後でシルスの家に行くよ!」

リロは手を振っている。
その約束に答えるように、シルスも手を上げた。

「ああ、待ってるよ!」



遅い……。

「あいつ… 何やってんだか…」

かなり暗くなったと言うのに、リロの姿はそこには無かった。

シルスの脳裏に、今までに無い不安が浸透する…。

家の中で待って居るのもたまり兼ね、家を飛び出した。

日暮れの丘に着くやいなや、それを確認するなり、シルスはギョッとした。
眺める先に、何と倒れているリロを発見したのだ。

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