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捨てがたきもの(拾いものシリーズ2)

 今日も晴天。
 高校生の土曜日は、月の第二週目に限ってのんびりしたものになる。
 伊集院隼人の土曜日も例外なく、お昼に近い朝だった。
「…おはよ」
 ふわぁぁっと大きく欠伸をして、隼人はパジャマのまんまダイニングキッチンに下りてきた。
「おはようございます、朝食の用意ができていますよ」
 テーブルチェアーに腰掛け新聞を読んでいた仁木が気づき微笑と共に語りかける。
「ああ」
 それに頷き、隼人は仁木の隣に腰を下ろした。
 テーブルにはサラダとバターロールが置かれていて、隼人が落ち着いたのを見計らったようにいれたてのコーヒーが運ばれてくる。大皿にオムレツ、マグにはコーンスープ。
 伊集院家お抱えシェフの大場は、静かな仕草で一礼するとそのまま廚房に戻って行った。
 隼人はそんなシェフの存在など気に止めた様子もなく、出された朝食にフォークを伸ばす。
「…今日はどこに行くんですか?」
 そんな隼人に掛けられる声。
 フォークを手にしたままテーブルにひじをつき、隼人は手のひらで顎を支えたまま小さく首をかしげた。
 起きぬけである。
 はっきり言って何も考えてなんかいないのだ。
 隼人にしてみれば、別に無理して出掛ける必要などないのである。せっかくの休日ぐらい家でゴロゴロしていてもいい。体を動かしたければ、プールだってテニスコートだってあるのだし。
「…どっか行きたいか?」
 ぼんやりと聞いてみる。
「わたしはあなたの行かれる所ならどこへでもついて行きますよ」
 さらりと仁木が言うのに頷いて、隼人はオムレツを一口口に含んだ。起きぬけのぼんやりとした隼人に微苦笑して、仁木は新聞を閉じる。見るともなしにそれを見て、隼人はふと気づいた。
「…何、読んでんだ?」
「新聞ですが…」
「テレビ欄か?」
「――――いえ、経済面を」
「…ふうん?」
 くすりと隼人の口元に笑みが浮かぶ。
 バツの悪そうな顔をする仁木に、隼人はくすくすと小さく笑った。
「隼人様」
 困ったように仁木は隼人に呼びかけた。多分の困惑を含んだそれに、隼人は笑いながら仁木の方に身を乗り出す。
「どれがわからない?」
 仁木が閉じてしまった新聞に顔を近づける。
 この男は見かけほど教養はないのだ。
 何でもできそうな大人の外見を持っているくせに、高校生である自分よりも何も知らない。まあ、中学しか出ていないのだから仕方がないのだろうけれど、それでももうちょっと物事を知っていてもおかしくはないのに、とも思ってしまう。


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