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リップサービス

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街灯もまばらな夜の歩道を二人の若い男女が並んで歩いていた。一見して恋人同士とわかる雰囲気で歩きながら話している。

「う~…寒い~」

彼女の方が何度目かの悲鳴をもらす。
「そうだね…今日は星がよく見えるから冷え方も格別だな」

彼氏もそれに応じる。

「でも、さっきの映画良かったね。寒いなか観に行った甲斐があったわ
あー、あたしもあんな嘘みたいにドラマな恋したいなー」

そう言って彼氏の方をイタズラっぽく見やる。

「悪かったな、平凡な男で」

彼はわざとらしく拗ねた顔で応える。
「冗談よ。言ってみただけだから。あんな目に合わずに付き合えるんだから、あたしたち幸せってもんよね」

彼女が笑顔でそう言うと彼氏もそうだな、と言って笑おうとするが、どこか顔が引き攣っている。

「どうしたの?なにか心配事?」

彼女の表情が曇る。

その顔を見て慌てて口許を押さえながら左手を振って否定する。

「いやっ! そうじゃない!ただ…」
「ただ?」

「…さっき笑おうとしたら『ピシッ』ってなって…」

そう言って彼は唇を指差す。
途端に彼女の顔がパッと笑顔になる。
「あはは。なーんだ!…だから、リップ持ち歩きなよっていつも言ってるじゃない」

「男があんなもん付けれるかよ」

「もう、そういうとこだけ妙に硬派なんだから。メンズもちゃんとあるって。おかしくないよ、今のご時世」

「でもあの仕草が嫌なんだよな…」

「そんなもんかなあ…」

と言いつつ、リップクリームを取りだし塗る。
「そうだよ、大体あんな…」

といきなり彼女が唇を奪う。

あっけにとられる彼氏に勝ち誇ったように彼女が言う。

「さっき心配させたお返し。それにこれなら別に女々しくないでしょ?」

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