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ク ア ト -夢見る星を知らぬ皓-

二冊目 記録・59


 どうしてこんな事になったのだろう、と。
 廃墟と化した建物群の影に身を潜めながら、密(ひそか)は思う。
 十六夜の月は雲に隠され、朧月の僅かな光が世界を曖昧に浮かび上がらせる。闇の支配下に生きる息吹はその僅かな静の光に縋り、死したる亡者はそこかしこに滞る漆黒の闇に同化する。
 纏う制服の黒は闇に同化する為のものではない。世界を満たす漆黒に紛れ、されど静謐なる月読の許に晒されれば偽りの死など全て剥ぎ取られてしまう。
 生か、死か。
 それだけしか、二者間における違いはない。
 そして、それが、決定的な相違だった。

『……鈴鳴』

 左耳に嵌めた小型のインカムから聞こえてきた呼び掛けに、密は下らない思考を即座に放棄する。

「はい」
『解析が終了した。この空間に閉じ込めたクアトは、やっぱり閃術(せんじゅつ)の使い手だ』

 闇に同化する亡者が火解の最終応用呪式である、熱と光を操る閃術の使い手ならば、その呪力は並大抵なものではない事は簡単に想像出来る。光の有する熱によって生体消滅すらも可能にする呪式は、対クアト封滅の為だけの教育を受けてきた呪式士にとっても脅威だった。
 しかし、最終報告に僅かにその漆黒の双眸を細めた密に恐れる気配は微塵もない。僅かに残っていた感情の波が引いていき、訪れるのは水鏡のように凪いだ心。

『俺と葩(はな)で闇に同化しているクアトを月の許に晒してやる。その後は……鈴鳴。できるな?』

 第弐師、通称月読と呼ばれる師団を率いる師長である梦(ゆめ)の確認に、一度瞼を閉じる事で己の状態を確認した密は、漆黒の双眸で夜天に輝く十六夜を見上げた。

「――はい」

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