対価の秤
対価の秤
とある森の深く、深く。
一目を避けるようにしてひっそりと佇む館に、
願いを叶えるというガーゴイルがいた。
何せ悪徳でない正当なる対価を払えば、
何千年という時を生きる魔導の岩は、
情を示し願いを叶えてくれるという。
ただ、
"この世に存在する筈のないもの"に関しては、
首を縦に振らない事も広く知られていた。
よって身体を蘇らせたり、ただの人に空を飛ばせることはできない。
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いらっしゃいませお客様。
お客様のご要望はなんでしょうか。
「****の"愛"」
お客様のそれに対しての対価は何で支払われますか?
「期待への応え」
畏まりました。
ではお支払頂きました後、ご注文頂きました"愛"を発送致します。
よろしければ、ご注文のお品の用途をお答えください。
「惨たらしく、見せつけて破棄」
よろしければ、理由をお聞かせください。
「…いらないから。
期待に応えなければ貰えない"愛"なんて…いらないから。」
ありがとうございました。
注文は以上でよろしかったでしょうか?
追加でも承っておりますが。
その言葉に、途切れながらも淡々とした口調を崩さなかった客が、せきを切ったように泣き出した。
ポロポロと涙が頬を伝う。
少年は身体を伏せて絶叫するように言った。
「どんな対価だって払うから……
どうか僕にあの人の無償の"愛"を……ッ!
」
情に深い筈の魔導の岩も、見る者を突き刺すような慟哭に眉一つ動かさず。
ガーゴイルは冷ややかに微笑み返答した。
「お客様、それは無理な注文でございますよ。」