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明かされぬ想い

明かされぬ想い

 今年も後数日で終わるとあってか、甲府の町は師走独特の喧騒に包まれている。甲斐国を収める武田信玄の居城でもある躑躅ヶ崎館も例外ではなく、新年を迎える準備に追われている家臣達が忙しそうに行き来していた。
 そんな中、今年も銀髪の男が面会の間へとやってくる。略式の正装に身を包んだその姿は、明日になると絢爛な袈裟を纏った姿に変わるだろう。そんな男の後ろには、武家の子息が好んで身に纏う直衣姿の少年が付き従っている。
「忙しそうだね」
「ああ。年の瀬だからな。邪魔にならぬ様手短に挨拶だけして引き取った方がよさそうだ」
 そう言って豪華な襖の前に立った幻雄が挨拶をすれば即座に入室の許可が下り、丁寧な所作で襖を開けて頭を下げる。入室の礼を終えて室内を見れば、武田信玄の側には相変わらずしかめっ面の軍師山本勘助と煌びやかな衣装を纏った美しい小姓、一段下がった場所には幸村の姿とその対面に見慣れぬ男の後ろ姿があった。
「おお、丁度良い所に来たな、幻雄よ」
「本年も多大なる御厚情痛み入りましてございます」
「堅苦しい挨拶はよい。武田家もお主の力を存分に借りておったしな」
 そう言いながら上座の信玄公に手招きをされて、幻雄は少年を伴うと正面に移動する。そして、客人であろう男にも丁寧に頭を下げた。
「林泉寺にて修行中にございます、幻雄という者にございます」
「ああ、知ってるぜ、色男」
「……」
 幻雄の挨拶になんとも気さくに答えた男の満面の笑みとは対照的に、見る間に幻雄の表情が曇ってゆく。珍しく不快感を顕わにしている銀髪の男の様子を信玄は面白そうに、幸村は珍しそうに眺めていた。
「……何故貴公がここにおられるのか、聞いてもよろしいですかな?」
「堅苦しくなったなお前」
 笑いを含んだ声が、全く答えになっていない言葉を返してくる。主の眉がどんどん顰められてゆくのを不安そうに見守っていた涼牙も、剣呑な会話ながらもどこか親しげな二人の様子にどうすればいいのか分からないまま黙って横に控えているしかなかった。そんな少年の様子に珍しく気付かないのか、幻雄と男のやりとりは続いてゆく。
「全く、人様の手紙の返事にあれだけいい加減な文面書けるのは最早才能だよな、お前も」
「私はいつも誠心誠意、心を込めて書いている。受け取り手であるお前の性根の問題だろう」
「相変わらず容赦のないお言葉だこと」
 やれやれ、と言いたげに肩をすくめる男の態度が益々幻雄の神経を逆撫でしているのか、眉間に深い皺を刻んだまま不快感を隠そうともしない。その様子は普段の落ち着いた物腰からは想像もできなかった。

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