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月光

始まりの時


ここ一週間、誰かに尾けられてる。マンションを出てから店に着くまでの間、一定の距離を保って。



桜町繁華街ー別名中国人街の大通りに面した四階建てのビルの一階に俺がやってる薬屋がある。

二十四時間営業で昼間は処方箋や漢方薬がメインで、夜はコンドームや精力剤とかの繁華街に見合ったものがよく売れる。

二階には闇医者まがいの個人病院が入っていて、昔からよく手伝わされる。
そんな店で夜の十時から朝の八時まで休みなく店番をやってる。

医者を目指していた俺が爺さんの希望で薬剤師に転向させられた時は落ち込んだりもしたが、今ではこれで良かったのかもなんて気もしてる。


爺さんは若い頃に中国から日本に渡ってきて一代でそこそこの財を成した。このビルも爺さんの持ち物だし他にいくつかのビルも持ってる。

両親は俺が生まれてすぐ、この界隈で起きた中国マフィアと日本のヤクザの抗争に巻き込まれて死んだ。それ以来男で一つで育ててくれた爺さんには頭が上がらない。

おかげで在日の中国人の中でも俺は苦労を知らずに生きてきた方だと思う。

爺さんは「人は助け合って生きるもんだ」が口癖で夜中も店を開けているのは、保険証も持たないような人や急な病気や怪我で困ってる人を助けたいからで、二階に入ってる医者を連れて来たのもその為だった。

だから俺も爺さんに見習って・・・とまでは言わないが、それなりに真面目に生きてきたつもりだ。人に恨まれるような覚えはない・・・はず。

なのに最近、誰かに尾けられている。この一週間ずっと


自宅から店までは人通りの少ない暗い道が続く。

強盗の類ならいつでも襲えたはずだ。探偵なら俺が気づかないようにやるだろうし、警察なら二人で行動するはずだ。

聞こえる足音は一つだけ。無理なく歩幅を合わせてくるから多分男。もしくは長身の女。

この界隈に住む中国人は堅気でも何かしら悪事に手を染めて生きている。マフィアとの繋がりもなくはないから、自分が知らない間に巻き込まれてる可能性だって否定はできない。

それを加味しても俺を尾行する理由には辿りつけなかった。


知り合いに頼んで俺と背格好の似た中国人を借りた。尾行者を知る為に。


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