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KNIGHT 2

KNIGHT2


ピンポーン

ピンポーン

俺は一生懸命、何度も何度も押す。
長谷くんの家のインターフォンを。
10回くらい押すと、ドアが開いた。

「・・・・・・・・・はい」

「長谷くん、大丈夫?」
「・・・・・・高尾」
「ほら、寝てなきゃだめじゃない」
「・・・お前が鳴らすから」
「あ、そっか。と、とにかく、お邪魔するね」
「え?」

俺は長谷くんの家にズカズカと入る。
どうやら1Rの家らしく、ベッドと机、本くらいしかなかった。

あ、でもキッチンはあるみたい。
よかった。
俺は、持ってきたビニール袋をこっそり下ろした。


「お、おい、高尾・・・」
「ほら、長谷くんは寝てて。話はそれからだよ!」

長谷くんは何か言いたそうだったけど、渋々ベッドに横になる。
きっと言う気力もないのかもしれない。

「長谷くん、大丈夫?熱は何度ある?ご飯食べてる?」
「・・・・・・熱は、ある」
「何度?」
「さんじゅう・・・・・・く」
「39!?薬は飲んだの?」
「飯食べてないから・・・飲んでない」
「バカ!そんなんじゃ、治るものも治らないんだからね!キッチン借りるよ」
「・・・・・・」

俺の気力に負けたのか、長谷くんは大人しく横になっていた。

だって俺は今日、
長谷くんの看病のためにここに来たんだから。
珍しく学校休んだから・・・心配で。

俺はタオルを絞ると、長谷くんの元へ急いだ。

「とりあえず応急処置。ね」
「ん・・・」

冷たいタオルが気持ちよかったのか、
長谷くんがゆっくりと目を閉じた。

あ・・・

はだけた胸元。
熱い吐息。
顔の赤い長谷くん。


『ぃ、いいから・・・はぁ』

『は、たか・・・っ、んむ、んん』

『んん―――――っ』


うわわわわ、
何を思い出してるんだ!俺は。

顔が赤くなっていくのをバレたくなくて、慌ててキッチンに戻った。











「できたよ。長谷くん」

長谷くんがゆっくりと身体を起こす。
背中に手を回すと、

「っあ、だ、大丈夫」
「あ・・・うん」

断られてしまった。
起きた長谷くんの目の前に、お茶碗を差し出す。

俺特製のおかゆだ。

「一人で食べられる?」
「・・・・・・ああ」

長谷くんはスプーンを受け取ると、少しだけおかゆをすくって口に入れようとする。

「・・・熱っ!」
「だ、大丈夫!?・・熱いよそりゃ。出来立てだもん」

長谷くんの手ごと握り、スプーンの上のごはんに向かってふーふーする。
何度も何度もふーふーした後、頃合を見て長谷くんの口へ、再びスプーンを持っていった。

「これくらいでいいかな。はい、長谷くん」
「あ・・・」

長谷くんはしばらく止まっていたけど、俺がスプーンを近づけるもんだから、
ゆっくりと口を開いた。

「・・・・・・・んぐ」
「美味しい?」
「・・・ん・・・・・・うまい」
「よかった。料理は得意なんだよねー」
「・・・・・・・・・っ!」

突然、長谷くんが顔を背ける。

「え?何?やっぱ美味しくなかった?」
「い、いや・・・・・・っ」

長谷くん横顔が、だんだん赤くなっていく。
いやもともと熱のせいで赤かったんだけど。

それよりも、そっぽ向いたままじゃ食べられないのに。



・・・やっぱり俺のこと、嫌いなのかな。

あんなこと、したから。



「・・・・・・ごめんね、長谷くん」
小さな小さな声でつぶやくと、長谷くんがハッとこっちを向いた。

「長谷くんにあんなことした分際で、家まで押しかけてきちゃって。
 しかも無理やり手料理とか食べさせて・・・」
「た、かお・・・」

「普段休まない長谷くんが風邪で休んだってきいて、いてもたってもいられなかったんだ。
 だから先生にワガママ言って住所聞いて・・・
 なんか、おせっかいだし、迷惑・・・だよね」

声がだんだんと小さくなっていく。
これじゃ、まるで拗ねてる子供みたいじゃん。

しっかりしなきゃ。
また長谷くんに迷惑がかかる。


「た、高尾・・・」
「・・・・・・なに?」


怒られる。お説教される。
俺はそれを覚悟していた。
なのに・・・



「・・・今の状況、わかってるのか?」
「・・・・・・え?」


今の状況、って・・・

長谷くんが布団の上にいて、
その布団の端に俺が座っていて、

俺の手はスプーンを握る長谷くんの手を握っていて、
さっきふーふーしたから、俺の顔はスプーンに近くて、
そのスプーンは長谷くんの口にも近くて、

・・・ってことは、
俺と長谷くんの顔も近くて。


「・・・・・・・・・あ」


どどど、どうしよう。

心臓がバクバクいってる。

熱がないはずの俺まで、熱くなってくる。


こんなつもりじゃなかったのに。
迫ったことを謝っておきながら、こんなに近づいてる。


謝るべきか、離れるべきか、気づかなかったと正直に言うべきか、
どうしたらいいかわからなくて、


頭が・・・・・・噴火しそう。



「・・・高尾?」
「あ・・・!」

握っている俺の手が、震えだした。
緊張してること・・・長谷くんに絶対バレてる。

止まって欲しいのに、落ち着いて欲しいのに、
震えが止まらない。



「手、放せ」



長谷くんは、反対の手で俺の震えた手を剥がした。

そして自由になった手で、おかゆを食べ始めた。

その間俺はずっと、長谷くんを見つめていた。
どうしたらいいか、わからなくて。


心臓のドキドキが、治まってくれなくて。





やがて食べ終えた長谷くんは、俺にお茶碗を渡す。
そして身体を再び横たえた。

そうだ!


「薬、飲まなきゃ」
「――高尾」


薬のことに意識が行って、体が自由になった俺の腕を、
長谷くんが掴んだ。



「迷惑だけど、おせっかいじゃない」



「・・・え?」

長谷くんは、赤い顔で、潤んだ瞳で、ゆっくりと放してくれる。


「まず、あのときのことは、怒っていない。
 あのときも言ったけど、お前がああしてくれなかったら、俺は・・・一人で変な声出してるところだった。
 だから・・・・・・助かった」
「・・・う、うん」
「今日だって、見舞いに来てくれて、おかゆ作ってくれて・・・助かった」
「長谷くん・・・」
「だけど・・・・・・っ!」


そこまで言って、長谷くんは顔を背けてしまう。
表情が見えなくなってしまった。


「だけど・・・触られたり近づかれたりするの、迷惑なんだよ」

――迷惑。
やっぱ、そうなんだ。

わかってはいるけど、胸が痛む。

「・・・うん、ごめんね」
「め、迷惑・・・だから・・・」
「・・・うん」
「その償いとして・・・・・・風邪、うつされて」
「・・・・・・え?」

長谷くん、ちょっと言ってる意味がわからない。
風邪うつされて?


「・・・ごめん、長谷くん。よくわからないんだけど」
「お、俺だって、わからない・・・けど」
「けど?」

俺は首をかしげる。
それを見て、長谷くんの顔がさらに赤くなった、気がした。
これ以上赤くなると、命に関わるんじゃないかな。

だけど、その意味を俺はやっと、理解した。

「・・・どうしたら、俺の風邪・・・高尾にうつる?」

長谷くんが、弱弱しく言ったその言葉で。



「あ・・・・・・ご、ごめん。俺、気づかなくて」
「・・・っ」

ゆっくりと長谷くんに近づく。

いいんだよね?
こうして・・・いいんだよね?


そしてそっと、
キスをした。


「・・・・・・長谷くん」
「た、かお・・・」


長谷くんが潤んだ瞳で俺を見る。
応えるように、もう一度唇をふさいだ。


ああ、すごくドキドキする。
心地いい、ドキドキ。


「長谷くん、苦しかったら、右手上げてね」
「・・・え」
「嫌だったら嫌って言って。じゃないと俺」
「・・・・・・んっ」


「風邪がうつるまでずっと・・・し続けるから」


舌を出して、長谷くんの半開きの唇に吸い付く。
湿った音を立てて、容赦なく長谷くんの口内を探る。


「んん、んぁ・・・」
「はぁ、長谷くん・・・っふ」


こんなことする俺のこと、長谷くんは嫌いになるかもしれない。
だってすでに、迷惑だって思ってるんだから。

でもこのキスで長谷くんの風邪が治るなら・・・

「あ、ふ・・・んん、ぁ、た・・・かお」



――嫌われたって、かまわない。


俺は頭の中で何度も、長谷くん、長谷くんって呼びながら、

キスをただ、繰り返した。

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