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昔話にハマった番人【三嶽視点】

三嶽視点

「ハッ!相変わらず何考えてんだかわかんねぇ奴だなぁおい」
番人に呼ばれて入った部屋に置いてあったボロい布を手に取る。こいつの趣味はさっぱりわかんねぇ。
わかんねぇしわかるつもりもねぇがな。
「今回は一体何をぶっ殺せってんだ」
思う存分壊しまくっても、気が済むまで殴りまくっても、誰も咎めない世界。
俺にとっては居心地が良い上に、ここの世界の番人ってやつは、咎めないどころかその行動を推奨してくる。
だからある程度の変態趣味には付き合ってやろうと思っているが…。
「…あ?なんだこりゃ」
仕事では着たこともないような服。赤が目立つ布は白い布に縫い付けられ外せそうもない。
広げて見てみるとサイズは気持ち悪いくらいに俺に合うが、形状がどうしても受け入れられない。
舌打ちをかます。だが番人が着ろというなら着るしかない。
「……変態が」
身に纏った赤はボロらしくくすんでいて、少しくらい血を浴びても気にならないように思う。
なるほどな、これ着て殴りまくって殺しまくって犯しまくれってことかよ。
「ハッ!上等じゃねぇか!今回はどんな奴らが楽しませてくれるんだよ」
血が騒ぐ。自分に似た何かだろうが、アウトディビジョンの世界の何かだろうが何だっていい。

番人が言うには、今回こんなフザケた格好させたことに意味はねぇらしい。
いつも通り過ごせと言ってきやがった。
何もないと知った俺は持て余し昂った感情を晴らすべく交戦の間までやってきた。
さっさと人を殴りたくて仕方がなかったが、すでに誰かが利用してるみてェで入れなかった。
とりあえず扉の前に腰を落とし扉が開くのを待つ間、ここに向かう途中すれ違った刃渡里の格好を思い出す。
デカデカと『日本一』と書かれた旗を背負わされていた。
ありゃきっと桃太郎だな。ハチマキもしてた気がする。正直あれじゃなくて良かった。
あれ着て修業とかやってられっかよ。
「よう塔士!えーっと、お前の格好は…」
「うるせぇ見んな」
俺に気付いた戦場が近付きながら声をかけてきた。また動きやすそうなボロを纏ってやがる。
二やつきながら上からじろじろ眺めやがって胸糞悪い。番人に持たされた中身の詰まったカゴを足で蹴り飛ばす。
「赤ずきんか」
俺でも知ってるタイトルを口にする。考えないようにしていたがやっぱりこれは赤ずきんだったか。
病気してるババアと簡単に騙される女を喰ったあと、腹掻っ捌かれて石詰められて井戸に落ちて死ぬ無様なオオカミが出てくる話。
俺が猟師なら女どもを救出したあとそのままオオカミの皮剥いじまうがな。
こいつと話すのにも苛立ってきた。まだ交戦の間は開かねぇのか…。
「さすがモデル。なんでも似合うなぁ」
感心したように戦場が言う。
「ケッ、こんなもんが似合ってたまるかよ」
お世辞だろうが本心だろうが、こんな服が似合って嬉しいわけがない。
しっかりと縫い付けられていて外せなかった赤いずきんをいじりながら、戦場の服をまじまじと見た。
関節技だの絞め技だの使ってくる戦場には、ボロいなりに動きやすそうな服はお似合いだ。
「で?お前は何なんだよ」
「俺か?俺は…」
言いかけて、戦場の後ろに何かいることに気付いた。そいつはモウと鳴いて少しずつ近づいてくる。
巨体に見合ったゆっくりとした動きで戦場の側に寄った。
まるで昔から連れ添っていたかのように頭を撫でる戦場の行動が信じられなかった。
獣臭い。思わず立ち上がって半歩下がる。
「…牛だと?」
「おう。知ってるか?ジャックと豆の木」
タイトルは知っていた。知っていたが、はっきりとした内容は覚えてない。
主人公が空まで伸びた豆の木を登って、金の卵だのなんだのを盗んでくる話だろ。
ただそれがどうしてこの牛に繋がるのかまでは覚えてない。なんだこいつ喰えるのか?
いい加減待ってるだけなのも飽きてきて、この牛を相手に戦うのもアリだと思い始めていた。
いや、ダメだ。楽しいことはこれから起きる。


俺はさっさと交戦の間に入りてぇんだ。
番人は言っていた。いつも通り過ごせと。なら俺たちのことをずっと見てやがるてめぇの従者は何なんだよ。
交戦の間への扉が開いた瞬間、俺は一度騒いだ自分の血が再び騒ぎ出すのをひしひしと感じていた。

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