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今日、君の家近く

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    連載中
    2016/11/21 更新
    今日、君の家近く/  はんな
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    作品紹介

    登校前の校門で今日も風紀委員として立っている僕の目の前に、いつも通りの面子と人だかりができている。

    「湊くん、おはよう。」

    「ああ、高橋さん。おはよう。」

    「湊さん、おはようございます。」

    「おはよう、小田さん。」

    …と、先程から挨拶ラッシュに揉まれているのがクラス一番のハンサムでイケメンな僕の同級生の浅倉 湊。彼の周りには常に人が取り巻いており、上からも下からも教師からも好かれるタイプだ。群がる人間は美男美女ばかりで、実に羨ましい限りである。

    僕はといえばその横をすり抜けて教室の後ろから入り、一番後ろの端っこの席に着席し、存在感ゼロで、趣味が写真と読書という地味な、眼鏡をかけたポッチャリの高校2年の男子生徒だ。要するに、彼と僕は光と影で、何の接点も無い。

    そして、今日もいつも通り僕は虐められる。誰もがその光景を見て見ぬフリをする。
    別にいいんだ。他の誰かが不幸になる訳でもないし、虐めは小学校から続いてる。

    だけど、この日はいつもの常軌(?)を逸するというか、理解の範疇を超えて酷かった。

    …というのも、普段は校舎裏で目一杯殴られ財布から札を抜き出し帰って行く筈の彼らが、今日はいつも虐めてくるリーダーとその二人に尿や精液を服や頭に掛けられ、最終的にはそれを飲まさせられた。
    何が何だか分からなかったが、必死に彼らの言うことを聞いた。

    ただ、涙が止まらなかったのを覚えている。

    それが起こったのが放課後のことで、彼らの気が済んで解放されると家まで走って帰った。風紀委員の仕事はまだあるのに、全てすっぽかした。
    今日の出来事は今までで一番屈辱で、拭い去りたい出来事だったのだ。

    親は夜にならないと帰ってこない。
    シャワーに入っても臭いが取れない気がして、何度も繰り返し体も頭も擦って洗った。ドライアーで髪を乾かす間は、何も考えられなかった。

    それから3日間、登校拒否をした。部屋に篭り、ただひたすらにゲームや漫画を読んだ。

    ピンポーン…

    学校を休んで4日目、家のインターホンが鳴る。
    もしかしたら、あいつらが家まで来たんじゃないだろうか…。立ち上がって、二階の自室から恐る恐る玄関の方を覗くと、なんとそこにはあのハンサムな同級生の浅倉 湊がプリントを片手に立っていたのだ。

    驚いた。だが、もしこいつがあいつらとグルだったらどうしようか…。そう考えているうちにまたあの記憶が蘇る。
    恐怖で動けない所を思い切り殴られ、髪を掴まれて好き放題にいたぶられる。そんな事、もう二度とごめんだ。

    下まで降りていたが、くるりと身をひるがえして階段を上ろうとすると、再びインターホンが家に鳴り渡った。

    何となく、受話器を取る。映し出された映像には湊一人だけが見えている。後ろに隠れてるとか…ないよな。

    「…こんにちは。」

    「やっと出てくれたね、健一くん。君の溜まってたプリントを渡しに来たんだけど、いいかな。」

    「わっ、分かりました。い…今、行きます。」

    ドアを開けると、玄関先でニコリと愛想よく笑う彼が立っていた。
    辺りを見回す。…どうやら誰も居ないみたいだ。
    僕が執拗に辺りを見回しているのを不思議に思ってか、湊が声をかけてきた。

    「どうした。何か気になる事があるのか?」

    「へっ!!?あ、いや…なっ、何でも、ないです。」

    「んー…健一くん、言葉に吃りがあるね。」

    ドキッとした。また、気持ちが悪いって言われるんだろうか。僕なんて太っている上に、不細工で何の取り柄もない。
    10歳の頃に取った写真で金賞を取ってもいじめっ子に破り棄てられる始末だ。

    「ごめっ…プリント、あっありがとっ…!!それじゃ…」

    「待って、健一くん。君ともう少し話をしたいんだ。」

    「ひっ…!!」

    何と、湊はドアに足を挟んできたのだ。

    「無理矢理でごめん…。でも、辛いだろ…このままじゃ。ほら、この写真見てよ。」

    「何…?誰?これ…」

    「よく見なよ。これ見て、僕を見て。」

    「…?………!…!!?」

    「ふふ、分かった?これは中学の頃の僕。この時はニキビも凄くて、受験勉強のストレスでブクブクに太ってて、虐められてたんだよね。」

    「嘘…だって、どうやってっ…!!」

    「あ、興味持ってくれた?」

    「すっ、すごい…よ。本当に、そっ…湊くん…なんだ、よね?」

    「うん、本当。良かったら、健一くん僕の家においでよ。色々、アドバイスしてあげるし、損はないよ。最終的にはこの前髪も切ったり…」

    湊が前髪に触れる。その拍子にズレていた眼鏡が床に落ちた。
    拾おうと、しゃがみ込むと湊も一緒にしゃがみ込んだ。

    「驚いた…君の瞳は虹色のダイアモンドだな。」

    うわっ…。いつもそうやって、女を口説いてるのか?と思うほど臭いセリフが湊の口から出た。

    「何…かっ、かか…からかわないで。」

    「違うよ。本当に綺麗な色だな…。この栗色の髪…もしかして、ハーフなの?」

    コクリと頷くと、湊は僕の頭を撫でてきた。

    「わっ…!!」

    驚いて、手を払ってしまった。恐怖が蘇る。この人は、たぶんあいつらとは違うけど、やっぱり怖い。

    「ごめんね、ちょっと近すぎた。だけど、僕は健一くんを助けたいんだ。君の気持ちは僕が一番分かる。もし、君がSOSを出したなら僕はいつだって君を…って、ありゃ?泣いてる。」

    そうだ。僕は今、泣いている。悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて泣いている。目頭が熱い。あの時とは違う、温かい何かが頬を伝って落ちてゆく。

    「僕はっ…!!僕を…助けてっ!!」

    「ん、了解した。」

    もし彼が僕を変えてくれるなら、助けてくれるなら僕は、全てをゆだねよう。

    そうして、この日から浅倉 湊と僕の特訓が始まった。


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