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今日、君の家近く2

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    2016/11/21 更新
    今日、君の家近く2/  はんな
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    作品紹介

    ピンポーン…

    「おはよう、健一くん。」

    「おっ、おはよ…う。」

    「あ、こっちは僕の妹の麻衣。」

    「おはようございます。妹の麻衣です。これから、宜しくお願いします。」

    「おっ…おねがい、します…。」

    兄妹揃って芸術品みたいな美しさを放っている。歩くだけで絵になるとは、まさにこの事なのかもしれない。
    二人に挟まれながら歩くのは、何だか気恥ずかしくて俯いてしまう。

    「はーっ…今日も寒いな。」

    「今日、にっ…日直、だから…早くてっ、ごめん。」

    「謝らないでください、健一さん。何も悪くないのに謝ってばかりいると、自分が辛くなるだけです。」

    「うん、麻衣の言う通りだ。ここは一度、謝るんじゃなくて感謝の言葉で返したらいい。恐縮するんじゃなくって、有り難みを持って人に接すれば自然と笑顔になるし気分も明るくなる。」

    「か、感謝…?」

    「それとね、健一くん…ちょいと失礼。」

    ガッ…グイッ…!!

    「うっ…!!?」

    「姿勢が良くなると、一段と見栄えも良くなる。プヨプヨの体は、僕の家で鍛えよう。」

    「気を悪くしないで下さいね。これでも私もおデブだったんです。」

    「えっ…!」

    「言ってなかったか?僕と麻衣は小学校からデブで、いじめっ子を見返してやろうと思って中学校で痩せ始めたんだ。まあ、卒業してから結果が出たから意味なかったんだけどね。君も見返してやりたいだろ?同級生から聞いたんだ。健一くんが虐めを受けてるって。ほら、毎朝風紀委員だから見てるだろ。いつも僕の周りにいるのは君と同じで自分の体にコンプレックスを抱く人だけだよ。」

    「僕…湊くんと、麻衣さんは…っ恋人だと、おもって…た。」

    「あははっ…よく言われます。」

    「兄妹だからな。お似合いですねって、言われるんだよ。いつも一緒だし。」

    そんなこんなでたわいもない事を話しながら学校まで歩いた。
    校門まで来ると、やはり人が集まり始めた。

    「おはよう、湊。」

    「おはよう、北村さん。」

    「お、もしかして隣のクラスの…?」

    「そうだよ。2-Bクラスの森 健一くん。これから仲良くしてあげてね。」

    「宜しくな、健一。」

    「よっ、よろ…しく。」

    凄い…たった数時間で友達がどんどん出来ていく。
    でも、クラスに入るのは怖いな…。

    「どうした?あんまり顔色良くないな。」

    「な…っなんでも、ない。ここまで、ありがとっ…!」

    走って、教室まで向かう。僕のせいで、彼らに迷惑が掛からないだろうか。でも、人と話すのは楽しい。何だかニヤけてしまいながら教室に入った。
    まだ早いから人は少ない。

    灯油を教員室から運んでクラスの暖房に給油する。暫くして教室が暖かくなり始めるとクラスの人数がだんだんと増えてきた。

    それと同時に僕を虐めてくる奴らもクラスに入って来た。

    「けんちゃんーー??何でずっと休んでたのかなー?」

    「ご、ごめっ…」

    そうだった。謝っちゃいけないんだ。何か、違う言葉を…。

    「お、はよ…きょっ、今日も…元気そう、で…よかった。」

    いつもの三人組がポカンとして僕を見ている。

    「おっ、おお!?何だよ、今日は随分と機嫌がいいな。」

    「あはっ、超ウケんだけど。てか、今日めっちゃけんちゃん姿勢良くね??意識高い系?」

    「はっ?いやいや…けんちゃん、それはないっしょ。無理無理。だってお前、この肉どうすんだよ。目だってキモいって俺が言ったから、ずっと隠してんだろ…?」

    「湊くんは…っ、そんな事、言わな…かった。たっくんみたいにっ…変な、色じゃな…ないって、綺麗なっ、色って…!!」

    僕がそう言うと、リーダーのたっくんの表情が固まった。それから、物凄い形相で僕を睨みつける。

    「あ?お前の目、そいつに見せたのか…?」

    「うっ…だって、あれはっ…事故…」

    「ゴチャゴチャうっせーんだよ…!!!何、俺以外に見せてんだよ。テメェ、ぶっ殺すぞ…!!」

    「折角メガネあげただろーが。次、外したらまたアレしてやるからな…?」

    「いっ、嫌だ…っ!!もう、やめてっ…!!」

    「生意気言ってんじゃねーよ。ッチ…!!今度やったらマジで殺すかんな。覚えとけ。」

    …不思議と、怖くなかった。いつもは目を反らすのに、今日は目を見てものが言えた。これは僕の大きな前進なんじゃないだろうか。

    でも、彼らと席が離れている訳ではない。僕の座っている席は教壇を前にして一番左の後ろ。その周りをたっくんたちが前、斜め右上、右…というように、僕を囲むように座っている。

    教師から見えないのをいい事に、席をくっ付けてきて突いてきたり、ノートを取られたり物を取られたりする。
    僕が嫌いなら無視してくれればいいのに。

    学校も終わり、日直を済まして玄関で靴を履き替えていると湊が外にいるのが見えた。

    「湊くんっ…!僕…っ、たっくんとっ…お話、出来た…!!」

    「湊…私と付き合ってよ。正直、あんなブサイクと絡んでも楽しくないっしょ。」

    え…?声を出したが、踏み留まった。下駄箱の陰から様子を伺う。
    この綺麗な人、誰だろう。先輩…なのかな。それにしても、随分と口が悪い人だ…。

    「先輩は、僕なんかでいいんですか?」

    「だって、湊カッコいいじゃん。私と付き合ってよ。悪い事はないでしょ?美男美女で話題も持ちきりになるし…」

    「…んだよ、…ス」

    「え?ごめん、よく聞き取れなかった〜。もう一回言って。」

    「はぁ…だからさ、うっせーんだよ、黙れ内面ブスって言ってるの。」

    …!!?その場はシンと静まり返った。
    湊くんはニコリとして動かないままだ。いつもの湊くんの笑顔じゃない…。
    少し、怖くなった。

    「え…え?どうしたの、湊…。」

    「僕は貴方みたいな中身が廃れ腐った人が大嫌いです。それに、元から貴方は美人でしょう?本当、容姿に恵まれていて良かったですね。それなのに、容姿だけで人を選ぶようなクズ女とは…ホトホト呆れます。分かったら早く、その如何わしい長さのスカート丈をどうにかしたらどうですか。ああ…それとも、下着を見せて誘ってるつもりだったんですか?」

    「なっ…え?湊…」

    「気安く呼ぶな。」

    「そっ…湊くん!!」

    気がついたら僕は叫んでいた。先輩はすでに泣きながら走り去っていた。

    「やあ、健一くん。」

    「さっき…どうし、たの…?あっ、ごめん…見て、た。」

    「あー…見られてたか。ごめんね、嫌なとこ見せちゃったかな。僕はああいう人を見下すような人は嫌いだ。…でも、ちょっと言い過ぎた。後半はただの悪口だったし、後で謝らないとね。」

    湊くんの家に着くと、まず写真を撮った。僕自身の写真だ。
    これで何をするのかと訊ねたら、アルバムにするのだと湊くんが教えてくれた。

    アルバムの一枚目には僕の写真が入った。これは、いわば僕の成長記録なのだ。食事制限から、筋トレ、精神面、ファッションなどありとあらゆるカリキュラムをこなしていくうちに立派な人格を形成できるようになる。
    いろいろと充実しすぎて、目まぐるしい日々が過ぎていった。

    一番キツかったのは、吃りの矯正だった。その事で何回も湊と喧嘩もしたし、泣いたりも怒ったりもした。
    失敗するのが怖くて行きたくない日もあったけど、毎日欠かさず湊の家に通った。

    そのうちに、段々と成果が現れるようになった。僕は、平均体重になり、肌荒れもあの手この手で改善。今までのような後ろ向きな気持ちはどこにも無く、吃りは改善された。

    残るは視力の回復だ。でも、たっくんは人にこの目を見せるなと言ってくる。
    理由は分からないけど、それはともかく僕の計画を進めるには眼鏡なしの生活でなければならない。元々眼鏡は掛けてはいたものの、最初はフレームも細かった。
    しかし、たっくんたちは僕が中学校に入る前にフレームの太い眼鏡を掛けるよう強要してきた。

    目の色素が薄い僕にとって視力改善をするのは容易いことではなかった。下手をすれば失明する危険もある。
    それでも僕は地道に努力を続け、視力を1.2に回復するまでに至った。

    今日は髪を切った。いよいよ明日は眼鏡を外して登校する日だ。もう浅倉兄妹は家まで迎えには来ない。
    たっくんたちに何と言われようと、僕は僕であり続けると誓った。

    だから、明日から僕はようやく胸を張って道を歩ける。
    そして、期待に胸を膨らませながら僕は布団に潜り込んだ。


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