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花魔女と午時葵

一日目:チクリジア


地球が滅びて五百年。新しい地球、通称『新地球』が誕生して五百五十年。この『新地球』の未開の地にある『神花の森』の中の巨大な屋敷。地球に存在した植物全てが存在する庭を今はたった一人の少女が管理していた。決して踏み込んではならない場所に、一人の少年は足を踏み入れた。



一つ一つの花が誇らしげに咲いている。失われる筈だった命達は、今もこの庭にいる。
薔薇、コスモス、紫陽花……。
この子達が私の悲しみを埋めてくれる。
この『花の屋敷』の外には、私の居場所なんて無い。
私達の祖先の星『地球』に存在した花々。失われる筈だった花達を守り、受け継ぐ。それが私の使命だと思っている。
「……ねぇ」
「……ひゃい!」
背後からの声。私しかいない筈なのに……身体が固まってしまう。
「君は誰?」
少し幼さを残した少年の声だ。そっと後ろを向く。そこには、漆黒色の少し長めの髪と深い蒼の瞳。私よりも少し下の歳ぐらいだろうか。
「貴方こそ誰?」
生身の人間を見るのは久しぶりすぎて、声が震える。怖い。この庭が壊されるかもしれない。
「…………」
「…………」
暫くの沈黙の後、少年が糸が切れた操り人形みたいに崩れ落ちる。
「うわぁ!」
咄嗟に少年を支える。すると、微かに寝息が聞こえる。どうやら眠ってしまったようだ。彼をよく見ると、身体は痣や傷だらけで、肌に艶がない。
……どうしよう。放ったらかしにする訳には行かないし……。
「……お父様、お母様、止めて…」
「……っ!」
その一言の寝言で、何となく察してしまう。恐らく、この傷や痣は虐待の跡だ。詳しくはわからないが。
助けたい。助けなきゃ。
私は彼を抱えて屋敷へと戻った。


彼を寝室の寝台に寝かせる。この寝台は昔、あの人が使っていたものだ。
さて。彼をどうするか。
……まず手当。起きたら事情を聴く。そうしよう。
棚を漁り、暫く使っていなかった包帯と消毒液を出す。タオルと沸かしたぬるま湯も。
「……ごめんね」
ぬるま湯で濡らしたタオルで彼の身体を拭く。勝手にシャツを脱がせる。
「……酷い」
シャツの下には、痣、切り傷、火傷の跡……その切り傷をそっと手当していく。痣は冷やす為に冷たい水で濡らしたタオルを痣の上に置く。
「……っ」
「……我慢してね」
シャツの下の手当も一応終わり、顔をそっと拭く。
透明感のある白い肌。長いまつ毛。整った顔立ちをしている。
…………それにしても、チクリジアの花が左胸に見える。これは花魔女の能力で、人の左胸に花が見え、その花言葉がその人の一日の行動や心情を現すのだ。
チクリジアの花言葉は『私を助けて』だ。これも私が彼を助けようと思った理由の一つ。助けを求めているのは明白だ。
窓の外を見ると、一面は闇色に染まっている。
もう夜だ。疲れた。眠ってしまおう。
着ていた服を素早く脱ぎ捨て、ゆとりのある寝巻きに着替える。
彼にもしっかり毛布を被せる。
寝台に入り、明かりを消す。
窓から入る柔らかな光に彼の白い肌を照らしていた。



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