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女勇者と愉快な冒険

第一話 破壊された村と勇者



[注意]
・女体化アリ
・「BL」のカテゴリーだが「BL」してるのはごく一部で、ほとんどが「NL」



***



 ―――今から昔の昔、大昔の物語。

 世界は魔王の手によって闇に包まれた。

 魔族によって人類は多く殺され、世界は崩壊の危機へと進んでいた。

 しかし、そんな魔王に立ち向かう人間が現れた。

 それは帝国に仕える騎士、通称「黙示録の四騎士」である。

 彼らは魔王を倒し、世界に光を取り戻したのである。


                  マトロニア帝国歴史書「黙示録の四騎士」より







 とある村に、一人の青年が住んでいた。
 心優しい青年で、平和で何も起こらない毎日を過ごす、何処にでもいるごくごく普通の青年だった。

 だが彼の“日常”は一瞬にして失われたのだ。

 その日は、青年にとってごく普通の日常を過ごす最後の日となった。その日も青年は変わらず村から外れにある森へと出かけていた。
 だがその日の森は少し違っていた。獅子の肉を目当てで森に入ったのだが、獅子どころか動物の気配もない。
 今日は運が悪かった……青年はそう思い、森を出る事にした。

 その瞬間、突如、青年の身体に冷たい風が当たった。

 青年は一瞬目を閉じた。再び目を開けると、青年は自分の身体がいつもと違う違和感に気が付いた。身体が、いつもより重かったのだ。
 青年は自分の身体に何が起こったのか、すぐに理解した。

 着ていた服が何故か大きい。視線も何だかいつもより低い。と言うか、自分の胸元を見れば、一目瞭然だ。
 青年は、自分の胸を触ると、村まで聞こえるような叫び声をあげた。


「なんだよ、これはあああああああ!!!???」
 







「・・・うわぁ、最悪な夢を見てしまった」

 青年は、夢から覚めるとスッと起き上がった。だが決して良い目覚めではなかったようで、青年は不機嫌な顔のまま目をこする。
 目を覚ますとそこは洞窟だった。寝袋の傍には昨晩燃やした焚火の後。洞窟の外ではお供である馬が草を食べている。
 青年は洞窟を出て、太陽を見上げると、「うーん」と声に出しながら体を伸ばす。最近、ずっと野宿だったせいか体があちこち痛むのだ。

 あれから半年も経ったのか――青年はそう思った。

 半年前、青年の身に起きた突然の不幸。
 冷たい風が自分の身体に当たったと思ったら、自分の身体はいつの間にか“女”になってしまった。身体は女になってしまったが、声や腕力、そして運動神経などは変わっていなかった。
 しかし、その日から青年は災難続きだった。

 理由は、女の姿になった自分があまりにも美しすぎるからだった。

 これが原因か、村中の若い男のみならず、すべての男から性的な目で見られるようになった。そのせいで夜も安心して眠れなかったのだ。少しでも気を抜くと、男たちに襲われる、そして襲われるたびに撃退する忙しい日々。

 だから青年は旅に出た。

 自分はなぜ“女”になってしまったのか、その理由を突き止めたかったのだ。そして元に戻って、前の平和な日常を取り戻すために。


 ―――しかし半年も経った現在、青年は原因を突き止められずにいた。
 色んな街に行っては情報を得ようとするも、結局病気か魔物が原因なのか何なのか分からずじまいだ。
 そして、その度に青年は声色を変え、女性のフリをした。どうせ、「自分は男だ」と言っても信じて貰えないと思ったからだ。しかし女のフリと言うものは疲れるもので、半年も経って最近でようやく慣れてきたのだ。
 その上、山に入ると山賊や魔物に襲われ、安心して旅も出来やしない。夜になっても、いつ魔物や山賊に襲われるか分からず、油断が出来ないまま一夜を過ごす。その為、最近ではぐっすり眠れた事がない。

 しかし今回は久しぶりに夢を見た。
 過去の夢だった為、決して良い夢とは言えない。だが夢を見るのも本当に一週間ぶりと言う所だろう。


 青年は自分の荷物に異変がないか確認をした後、近くの木に生っていた木の実を朝食とした。
 お腹いっぱいになった……とは言えなかった。むしろ空腹がさらに増したと言った方がいい。だが何も食べないよりマシだった。
 支度を終え、青年は洞窟の前にいた馬に跨ると、次の目的地へ向かう為に深い森の中を進み始めた。。

 と言っても地図もなく、完全に迷っていた為近くに村か町があるのかどうか、青年は分からなかった。とにかく道を頼りに進んで行けば付くだろう……青年はそう考えていた。

「うわあああああ!!」

 洞窟を出て数分も経たないうちに、何処からか男の叫び声が聞こえた。青年は慌てて、その叫び声が聞こえた方向へ馬を走らせた。

 “この先の森には魔物が出る”

 一週間前に立ち寄った村にある唯一の宿屋の女将から聞いた話を、青年は思い出した。
 不安になる中、青年は馬を降りてから茂みを掻き分けて進む。

 茂みを抜けると、そこには三匹の魔物がうずくまった男を取り囲んでいた。青年はすぐに背中に背負っていた大剣を抜く。

「お前等!!何している!!」

 青年は男を庇いながら、自分の身長より倍もある大剣を振り回し、魔物を追い払う。魔物は手も足も出来ずにその場から逃げて行った。雑魚の敵でよかったと、ホッと安心した。
 青年は大剣を元に戻すと、慌ててうずくまる男へと駆け寄った。

「おい、大丈夫か!?」

 体を揺さぶってみるが、男は反応しなかった。それどころか、ピクリとも動かなかった。
 死んだのか……と一瞬、最悪の結果が過るが、何処を見ても男には怪我などはなかった。それどころか無傷だ。
 気を失っているのか? 青年は再び声をかけようとした時だ。


ぐぅ~~


 と、大きな腹の虫が鳴った。
 一瞬、自分のお腹かと青年は思ったが、それは男のお腹から聞こえてきたのだとすぐに分かった。
 青年は苦笑した。だが、とにかく無事だと分かり、青年はホッと安心した。

「うぅ……」

 男が呻き声を上げた。

「大丈夫か?」

 青年は再び声をかけると、男はその声に反応したのか小さな声で喋り出した。最初は聞き取れなかった為、青年は男の顔に顔を近付け、耳を澄ました。
 男はもう一度喋り出した。

「お、お腹が……空いてて……もう、三日も食べて……」

「……」

 どうやら男は空腹で倒れていたようだった。
 青年はどうにかしようと思ったが、自分には今他人にあげられる食料は持っておらず、近くに村があるかどうかも分からない。

「ま、待ってて! 何か探してくるから!」

 青年は男から離れると、木の実や安全そうなキノコなどをかき集めた。



***



 食べられそうなものをかき集め、青年はそれを火で焼いた後、空腹の男に食べさせた。それと近くの川から汲んできた水を飲ませてやると、男はますます元気になり、いつの間にか自分でご飯を食べていた。

「いや~! 君には感謝するよ~! 三日も食べずに倒れたら、そこを魔物に襲われちゃってさ! 危うく死ぬところだったよ!」

 男はケラケラ笑いながら話し始める。

 さっきは慌てていた為気が付かなかったが、男の容姿は青年の歳と同じ十代の青年だった。女性に人気そうなイケメンな容姿をしていた。
 もし自分が本当の女性だった惚れていたかもしれない……青年はそう思った。

「自己紹介が遅れたね、俺の名前はハデス。君の名前は?」

「お……わ、私? 私は……」

 青年は自分の名前を言うのに躊躇った。
 理由は彼の故郷にあった。彼の故郷には昔から、「心の底から信じる相手にしか名前を言ってはいけない」と言う風習があったのだ。
 しかし、相手は名乗っているのにも関わらず、自分は名乗らないのはどうなのか……青年は少し悩んだ。

 青年が困っていると、「ハデス」と名乗った男は何かを察したのか笑みを浮かべた。

「別に良いよ。名乗れない事情があるんでしょ? 無理に名乗らなくても!」

「ご、ごめんね……」

 青年は申し訳なさそうに謝ると、ハデスは全く気にしていない様子で、「気にしなくていい」と優しく答えた。
 ハデスは青年が用意してくれたご飯を全て食べ終えると、パン!っと手を叩いた。

「そうだ! 助けてくれたお礼をしたいんだけど、何かないかな?」

「そ、そんな! 当たり前の事をしただけだし、お礼なんて……」

「君は俺の命の恩人だ。その恩人に礼の一つもせずにお別れなんて、騎士として失格だよ」

「ハデスは騎士さまなの?」

 だが何処からどう見てもハデスは騎士には見えなかった。
 ジロジロ見ていると、ハデスはケラケラ笑った。

「冗談だよ、俺はただの旅人さ。でも恩人に礼をするのは当たり前! 君がいくら拒否しようとと、礼をさせてくれるまで付きまとってやるからな!」

「……じゃ、じゃあ! 実はちょっと道に迷ってて、この近くに村ってないかな?」

「村か、ならお安い御用! すぐそこだし、案内してやるよ」

 ハデスは青年の手を取って立ち上がる。
 青年が乗って来た馬の元まで戻ると、ハデスは青年だけ馬に乗せて、ハデスはと言うと、馬の綱を引っ張り歩き出した。
 
 紳士的に接してくれるハデスに、青年は一瞬気を抜きそうになったが、今までの経験を思い出し、気を抜くわけにはいかないと考えた。
 今まで会って来た男達も、最初は優しく接してきてくれるが、気を抜いた途端に襲ってきたからだ。
 ハデスには悪いが、気を抜くわけには行かない…青年は思った。

「ハデスも旅人なんだよね」

「まぁね。詳しい事は言えないけど、やる事があってね。そういう君こそ旅人だろ? 女の子一人で旅なんて、目的は?」

「そ、それは……」

 青年は言えなかった。女になってしまった理由を知る為に、そして元に戻る為に旅をしているなんて決して言えなかった。

「あ、言わなくていいよ。俺も言わなかったし」

「なんか、さっきからごめんね。私だけ何も言えなくて…」

「いや、君の行動は正しいよ。初めて会った男にペラペラと情報を言う女なんて、逆に怪しすぎるって。まぁ、君みたいに何でもかんでも隠すのも怪しいけど、君は命の恩人だ。怪しい人だなんて思わないよ」

 ハデスは、空を見上げた。釣られて青年も空を見上げた。森の木々の隙間から見える空はとても綺麗だった。
 次にハデスを見ると、ハデスはとても悲しそうな表情をしていた。

「昔は、鳥が多く飛んでいたんだ。けど、この森に多くの魔物が住み着くようになってからは、鳥はもちろん、他の動物や虫たちが消えて行った。草木は枯れる事はなかったけど、花は咲かなくなった……」

 ハデスの言う通り、この森に入ってから一度も魔物以外の生き物を見た事がなかった。
 昔は綺麗な花がたくさん咲き、動物たちもたくさん住んでいたのだろう。青年が前にいた村の人からも、この森はこの先にある村の唯一の近道“だった”と言っていた。
 しかし魔物が住むようになった半年前から、この森に入った村人は二度と戻って来る事はなかったらしい。そして次第に村人たちはこの森を使わなくなったのだ。

「なんだか魔物の数が増えたよね。半年前くらいからかな? その前までは魔物なんて絶滅危惧種みたいなものだったのに……それと地震もあったよね。あれで多くの人間が死んだって、噂で聞いたよ」

(……半年前?)

 ここで青年は小さな疑問を見つけた。もしかしたらただの偶然なのかもしれない為、確信は出来なかった。
 
 ――魔物が急激に増えたのも半年前

 ――地震が起こったのも半年前
 
 ――自分が“女”になってしまったの半年前

 果たしてこれは偶然か。偶然にしては、半年前に色々起こり過ぎではないだろうか。
青年はこの「偶然」を、ただの「偶然」では片づけてはいけない……そんな気がしたのだ。

「ハデス。半年前に一体何が起こったのか知ってる?」

「魔物が急激に増えたとか、地震が起こったとか……」

「そんなじゃなくて、そういう事が起きたキッカケと言うか」

「キッカケね……」

 ハデスは少し考えた。
 青年的には「特に何もなかったよ」と言ってほしかったが、青年の期待をハデスは見事に裏切ってくれた。

「詳しいことはよく分からないけど、数十年前に魔王が復活したとか……」

「魔王!?」

 思っていたよりも壮大しすぎて、青年は驚いた。
 「魔王」と言う存在は知っていたが、まさか実在していたなんて、てっきり物語だけの登場人物かと――青年は思った。

 「魔王」と言うのは、今の時代からはるか昔の事だ。それがいつくらい昔なのかは、誰も知らない。それくらい大昔なのだ。
 その時代に、魔王が突如現れたのだ。何の前触れもなく、本当に“いきなり”現れたのだ。一体何が起こったのか、魔王の正体も知らないまま、世界は一晩にして闇に覆われた。
 かつての人々はその一夜の事を「災悪の夜」と呼んでいた。太陽が隠され、一度も光が差さない日が続き、人々は絶望へと落ちて行った。
 だが、魔王に対抗する為に四人の騎士が立ち上がった。彼らは帝国に呼ばれ、打倒魔王として旅に出たのである。それが今の帝国、「マトロニア帝国」である。
 そしてその四騎士が後々人々から「英雄」と呼ばれるようになった「黙示録の四騎士」である。
 長い死闘の末、魔王は倒され、再び世界に平和が訪れた。

 それが、青年が幼い頃に沢山聞かされた物語である。あまりにも現実味がなくて、青年はてっきり物語だと勘違いしていたのだ。まさか実話だったとは、青年は思ってもいなかった。

「魔王って、あの四騎士物語に出てくる魔王の事? でもあの魔王ってはるか昔に四騎士が倒したんじゃ……」

「よく分からないや。でも魔物の数が増えたって事は、魔王が復活したって事なんじゃないのかな?」

「でももし魔王が数十年前に復活してたとして、魔物数が増えたのは半年前だよね。今の今まで何してたの?」

「さすがに魔王の事情なんて知らないよ。そう言うの知りたいなら、魔族さまに聞くしかないんじゃない?」

「魔族……」

 「魔族」も魔王と同様に、よく物語に出てくる種族だ。大体が魔王の部下として登場する。まさか魔族も存在していたなんて、青年は驚きの連続で頭が混乱していた。

(じゃあ俺が女になったのも、魔王が原因? けど、どうして……)

 青年は考えたが理由が分からなかった。まず魔王が復活したのも事実なのかどうか怪しい所だ。別にハデスを疑っている訳ではないが、信ぴょう性が低すぎるのだ。
真実が分かるまで、魔王が原因だと決めつけるには早すぎると青年は考えた。



***



 出発して数時間くらい経った。青年とハデスは村にたどり着いた。

 ―――いや、村が“あった”場所と言う方が正しいかもしれなかった。

 二人の目に映る光景は、確かに村があった痕跡があった。しかし「痕跡」だけだ。それ以外何もなかった。人間も、建物も、動物も、何もなかった。
 唯一あるのは、壊された建物残骸だけだった。

 口にもできない光景に、青年は固まっていた。
 そんな青年に気を使ったのか、ハデスは青年にそこにいるようにと指示し、一人で村の残骸へと歩き出した。
 青年は勇気を出し、馬を降りるとすぐにハデスの後を追った。

「誰かいないか! いたら返事をしてくれ!」

 ハデスが大声で生存者に呼び掛けるが、誰も反応しなかった。
 村は完全に滅んでしまったのだ。

 数分間歩きまわってみたが、人間の姿はなかった。仕方なく二人は、村の入り口へと戻っていった。
 青年の顔色が悪くなった事に気が付いたハデスは、青年を木陰へ座らせた。

「気分悪い? 大丈夫?」

「平気……ただ、こう言うのに慣れていなくて」

 半年間旅をしてきた青年だったが、人間の死体や、壊された村などにはまだ慣れていなかった。昨日まで生きていた人たちが次の日には死んじゃったと思うと、感情が溢れてきて涙を流すことが多かった。
 むしろこの状況でも平然といられるハデスに、青年は少し恐怖を感じた。

「ハデスは平気なの?」

「俺はもう見慣れているんだよ。別に君を怖がらせる気とかはないんだけど、これから先も旅を続ける気なら、こういう光景には慣れておかないと」

「そうだけど……」

「でも、会った事もない人たちの死に涙を流すなんて、君はとても優しいんだね……俺はもう涙も出ないや」

 ハデスはそう言い残すと、青年を置いて一人で何処に行ってしまった。一人残された青年は、相棒の馬と一緒にハデスを待つことにした。

 しかしハデスは思っていたよりも早くに戻って来た。それも急いで。よく見ると、彼の右手には何かが握られていた。
 ハデスは青年の前に立ち、息を整えながら、その持っていた“それ”を青年に手渡した。

「これは?」

 手渡された“それ”は二つに折られた紙切れだった。開けて見ると、まるで血で書かれたように真っ赤なインクで、何かの紋章が書かれていた。しかしこれだけ渡されても、青年は分からなかった。
 息を整えたハデスが話し出した。

「さっき、また村を一周して来たんだ。そしたら倒壊した家にこの紙が落ちてたんだ。それも、何処の家にも」

「だから、どうしたの?」

「ちょ、何も知らないの!? これはね、魔物の印なんだよ。魔物が村や町、もしくは荷馬車などを襲った時に必ず残すんだよ。しかもそのマークを見る限り、ただの魔物じゃないね」

「?」

 あまりにも何も知らなすぎる青年に、ハデスは初めで苦笑した。それでもハデスは優しく教えてくれた。

「魔物にも色々いるんだよ。詳しい説明などは後でするとして、その紋章はね、盗賊を生業としている魔物の紋章なんだよ」

「魔物にも、生業とかあるんだ……」

 魔物には“意思”がないと聞いたことがあった。そんな魔物たちにも「職業」がある事に、青年は驚いた。
 ハデスは再びその紋章が書かれた紙を見て、困ったような表情を浮かべた。

「おそらく、この付近で暴れまわっているという盗賊集団だと思う。困ったな、騎士を呼ぶにも近くには大きな町なんてないし……」

 すると、青年は立ち上がった。
 
「私に任せて!」

「・・・は?」

「私、許せない! その盗賊集団のアジトに乗り込んで、一匹残らず倒してやる!」

「ちょ、ちょっとストップ!!
何言ってるの!? 相手は魔物だよ! 魔物がたくさんいる所に、女の子一人で乗り込むなんて、自ら死にに行くものだよ! 危険だよ!」

 突然正義感に燃える青年を、ハデスは慌てて止めた。しかし青年の耳にはもうハデスの言葉は届いていなかった。
 ハデスは溜息をついた後、青年の肩を強く掴んで顔を近付ける。

「君が強いのは知っている! けど危なすぎる!それに、場所も知らないだろ!」

 ハデスがそう言うと、青年はニコッと微笑んだ。ハデスはキョトンと不思議そうな表情をしていると、青年はハデスの手を掴んだ。

「誰も1人で行くとは言ってないよ! ハデスも一緒に来てくれるんでしょ?」

「ちょ、ちょっと待った!」

 ハデスはすぐに青年の手を振り払った。青年は少し驚いた顔をして、ハデスを見た。
 ハデスはと言うと、少し怒りの表情、けど少し困ったような表情を浮かべていた。

「馬鹿じゃないの? 何で、会ったこともない村人たちの為に自らの命を危険に及ぼす。もう村人たちは死んでいるんだ。君が仇をとったところで、誰も感謝しない。君が死んだら、ただの無駄死にだ」

 ハデスがつまり何が言いたいのか、青年は分かった。
 
 彼は怒っているのだ。それと同時に不思議なのだ。
 なぜ会ったこともない村人の仇を取ろうとするのか。初めて会った人間に、見ず知らずの人間に食べ物を与え、一緒に来てくれるのだろうと信じるのか。ハデスから見ると、彼女はあまりにもお人好しすぎるのだ。
 仇を取ったとしても、誰も彼女に感謝しない。もし死んでしまったら、彼女はただの無駄死になってしまう。
 ハデスはそんな悲しい結末は望んでいないのだ。彼女はハデスにとって命の恩人。彼女には死んでほしくないのだ。

 青年は一度目を閉じると、目を開けて空を見上げた。

「……私ね、この半年間の間に、色んな事学んだんだ。人を助ける事が、とても気持ちいい事なんだって。例え感謝されなくてもいい。その人の仇を取れたなら、相打ちでも構わない。馬鹿だと思うかもだけど、それが私なんだ」

 理由になっていないのかもしれない。それでも構わないと思った。この半年間の旅は、青年を少し成長させた。それは「人を助ける喜び」だ。
 元々青年はお人好しだった。けど、昔の彼なら見ず知らずの人間を助ける事はあっても、すでに死んでしまった村人たちの為に仇を取る事なんてしなかっただろう。破壊された村を見てショックは受けるが涙は流さなかっただろう。
 この半年と言う短い間に多くの人と出会い、多くの人々を助けた。

 その内、青年の知らない所で、彼女をこう呼ぶ者が増えて行った―――。

「勇者って、呼ばれるようになったんだ」

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