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成長

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    完結
    2020/2/11 更新
    成長/  のこり湯
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    作品紹介

    「先生 さよなら!」
    「みなさん さようなら!」
    帰りの会の締めの言葉。41人が頭を下げランドセルをガシャンとさせる中でひとりいつも横向きに頭を下げた。
    真横にある窓を思い切り開いて
    「みなさん! さようなら!」と強かに笑うと怪盗が如くヒラリと飛び降りる。怪盗なら姿を消し、高笑いだけがその場に残るが私はただの小学生なので真っ直ぐ落下し地べたに血溜まりを披露するだけだ。
    こうして毎日自分を殺しては死体を残し、校門を出た。やらなかったのはカレーの染みのインパクトにも劣る出来事になるのが分かっていたからだ。窓から飛び降りた瞬間、一間あって全員が窓に向かい下を覗く。動かないクラスメイトを見て途端悲鳴が上がる。教室中パニックになる。この出来事のピークはせいぜいこの辺りだ。かん口令が敷かれる中、黄色い帽子のひな鳥たちは階段の下で、休み時間のトイレで、朝礼前の教室で互いに話し、伝達し、繰り返されるのが終わると如何に自分が詳しく知っているかの競争になり、尾ひれがつき、急速に萎む。だから妄想だけで済ませた。自分の死が何の効果も無い事も知っていたし、だったら悔しいとか惜しいとかでもなかった。日常に数本の毛を生やす程度の変化をわざわざやり遂げる事に意味を感じなかったからだ。その割りには毎日同じ時決まって同じ妄想を繰り返す。
    いつしかそれが復讐ではなく、1日のリセットなのだと気がづいた。

    4月早々私は担任に棄てられた。
    糞の様な人物だったのでその部分では心を傷めなかった。その延長でコイツには何をしてもいいとレッテルを貼られた為、その手の連中にいい様に扱われた。でも私の怒りはそこじゃなく、『冤罪』事例を起こされた時のみ発動した。人の罪を被せられ、頬を叩かれ、廊下に立たされ、罪人として教室の前で正座させられ見世物にされるのは自尊心が抉られた。
    そんな日も何事もなしと1日が終わり、帰る前にまたひとり、私を殺す。

    夏休み明け、席替えがあった。
    隣りになったのは照れ屋だけど話すと気さくで周りにも静かに好かれる男の子。
    この教室でまともな雛の1匹だった。
    ただ彼の中で悲しい出来事が進行していた。
    去年、お父さんに癌が見つかった。
    彼はお父さんが大好きで、それでも毎日ここに通い、友人の話しに耳を傾け、共に笑い、まじめに授業を受けていた。10月の中頃お父さんが死んだ。危篤状態に入ってから彼は学校を休んでいた。その間私の隣は空っぽ。クラスもしんみりとしていて、いじめ連中でさえ空気を読んで大人しくしていた。
    半月程経って彼が登校してきた。
    再び埋まった隣が申し訳なく思いながらも嬉しかった。
    「おはよう。」
    「おはよう。」
    笑顔も物腰も何もかもそのまま。
    増々嬉しかった。クラス全員が安心し、
    見えない胴上げが起こっている気さえした。
    算数の時間だった。ふと斜め前の席の子が彼にコソリと話しかけた。前にも言った通り、ここの担任は糞なので、見つかったが最後。
    それでも優しい彼は困り顔で「バレたらやばいよ。 」と友人を制した。
    そして見つかった。

    ニタニタとしながら担任は彼を立たせた。
    教室いっぱいにハラハラとゆう文字が浮遊している。だって彼は傷ついてはいけないのだ。
    その資格を持っているのだ。
    「お前、父親が死んだから大人しくなると思ったのに随分元気そうじゃないか。」
    頭の中が真っ赤になった。手足がありえないほど震えて止まらない。全身の毛がヤマアラシのハリみたいに伸びて硬化してゆく。怒髪天を衝く。後で知った。
    やっとの事で首が動き、彼を見上げた。
    あ。 とゆう顔をしていた。真正面を向いたまま何でもないよと微笑んで見せ、そして落ちた。

    微笑みの後ろに大きな窓が見えた。
    握った拳が段々と開いて窓枠から手が離れるのが見えた。もうどうしようもないんだ。そのまま落ちていった。

    ぐっと耐えていた彼の目から一筋涙が零れた。それを見ると担任は嬉しい!と納得し、
    「座れ。」
    と言うと背を向け授業を開始した。
    彼は深く息を吸うとノートをとり始めた。

    当事者でない私が置いてきぼりになった。
    今はもう鉛筆のカリカリとゆう文字が机と机の間で整列していた。
    担任にしがみつき怒れるハリを突き刺しパンチを連打していた私は奴が背を向けただけで
    KOされた。

    その日、私は窓の外に身を投げなかった。
    いつもなら亡骸の山にもう1つ増えるだけだったそれは黒板の下でうずくまって死んでいた。


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