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幻葬

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    連載中
    2020/2/11 更新
    幻葬/  のこり湯
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    作品紹介

    14歳の秋 左側の首の付け根にあるしこりに指先が触れた。鏡に近づけると親指の先程の山が鎮座している。時計を見上げると詰め襟を正し慌てて階段を降りた。

    14回目の冬は今までで最高に寒かった。
    特に通学時間がこたえた。コートにマフラーに手袋にイヤーマフあとカイロをふたつ。
    寒くて寒くてフラフラと歩いた。
    でも一箇所だけじんじんとする場所があった。
    マフラーの下の更に下、それは数ヶ月の間にスクスクと育ち鈴カステラの様になっていた。こいつの発育タイムは何となく把握していて、睡眠中居眠り中バレてないかの様にこそこそ膨らんでいった。

    倒れたのは正月が明けた頃だった。
    トイレに行こうと立ち上がった途端こてんと首が後ろに倒れ視界に天井が。慌てて手をついたが机の上の何かで滑り床にダイブした。
    色とりどりの小さな袋があちらにもこちらにも。プールでダイブに失敗して腹を打つととてつもなく痛い。目蓋が閉じた。

    大きな病院のひと部屋で家族並んで話しを聞く。何かに似てるな~と思ったら家族写真だった。お城から上がる花火を背にしてカシャ。あ 。でも今は弟がいないや。婆ちゃんちに置いてきた。母さんは先生の話が進むたび頭が下に落ちていった。落ちる頭を支える為にハンカチで涙を拭っている。父さんは真っ直ぐ正面を見据えたまま固まり、瞬きを忘れ目玉が充血していた。
    先生の話しはこうだった。
    それは育つ鈴カステラではなく悪性腫瘍です。
    母さん父さんは知らないそんなバカなと全身で表し、敏い僕は知っていたのでまゆげを八の字にした。余命は今年の初夏だろうと言う。
    賞味期限案外長いな。

    家に戻ると僕はさっさと部屋にこもった。
    二人は僕に声をかけず腕を伸ばせずソファーに沈んだ。部屋ですすり泣く僕を思いながら
    再び泣いているんだろう。
    その頃僕は鏡の前で全裸になっていた。
    確かに痩せている。しかし骨と皮の間にわずかな肉が存在している。さてすっかり主役になりつつある奴は鈴カステラからたこ焼きに進化していた。一貫性がない。
    なんとなく陰部を触った。こすると少しづつ持ち上がってくる。なんだ元気じゃん。そのまま強くしごき続け、突き上げてくる快感に腰を突き出して果てた。ベッドにもたれるとなんだ生きてるじゃん。そのまま微睡んだ。鏡に飛び散った精液が幾筋も流れていった。

    春 自宅療養に無理が来て入院が決まった。
    当日の朝たこ焼きからすももに進化した奴を鏡に映すと油性ペンのキャップを外した。

    診察が始まると少しワクワクしていた。
    担当医と看護師が母さんと父さんが一斉に左肩を覗き込んだ。誰かが「えっ?」と言うとその場の大人達があんぐりと口を開け同じ顔が揃った。奴に☻がひっついていた。
    ヴィランならぬ顔を与えてやったのだ。
    まぬけな悪役め。

    ベッドで眠ることが増えた。管のオプションつき。添い寝はテニスボールに進化した奴。
    悪い日が続くと奴にガブガブと噛みつく衝動にかられる。しかしままならずだらだらとヨダレを垂らすばかり。看護師さん違うんです。かわいそうじゃないんです。しっかりとした悪意なんです。

    珍しく体調が良く、陽にあたることを許された。母さんに車椅子を押され中庭に出る。見ると3羽のカラスが地面で大乱闘中である。必死の3羽は羽根が抜け雄叫びを上げ死に物狂いで絡まっていたがやがて1羽また1羽と負け去り、残ったのは一番小さな1羽だった。少しグッタリしていたが起き上がると身震いしてから足下に嘴を突っ込み何か咥えるときょときょとと辺りを見回しバチッと音がしてトコトコと僕に歩み寄った。見上げる嘴にはキラキラと光るものが挟まれている。少し屈むと掌を差し出した。
    カラスは首を傾げてからそれを手の中にぽとりと落とした。確認しようにもカラスが見上げたままなので「んああ」と身体中ま探ると胸ポケットになぜか金平糖が入っていた。なんで?と怪しみつつ手に乗せて差し出すとパクッと受け取り、バサッと空の点になった。

    見てみると蒼くキラめいたそれは種で、指でつまんで太陽に透かすと中に小さな小さなふたばが見えた。
    「戻ろうか?」母さんの声がした。
    種を掌に押し込むと胸ポケットに逃がした。
    「うん。」
    ん? 母さんは今の見えてなかったんだろうか。
    答えは簡単だった。
    僕の奇跡だからだ。

    春の終わり野球ボール並に硬く大きく進化した奴は添い寝係を辞めた。
    奴は更に更に熱をおび、床ずれを起こし傷を化膿させダラダラと体液漏らしっぱなしで看護師さんに日に何度も当て布と包帯を取り替えてもらう赤ちゃんプレイにはまっていた。
    僕の栄養たっぷりの三食昼寝付きを当たり前に享受し、おめざ、おやつ、夜食迄振る舞っているとゆうのに奴の要求は酷くなるばかりだ。
    そろそろ別の奴と付き合いたい。

    朝 看護師さんが包帯を外した時に
    「傷を見たいんですけど・・・」
    と言った。淡々と作業する彼女の手が止まり、
    目で「マジか。」と答えた。それから「こちらはお勧め出来ません。」とゆう顔でおずおずと手鏡を渡してくれた。震える僕の手を支えてターゲットまで導く。居た。赤黒く爛れて熟れ、ボールの中程から背中側に向ってきったねぇ火口が開きテラテラと体液を滲み出している。
    「もういいです。」と言うと彼女はこんな悪い物は閉まっちゃいましょうね。とばかりに鏡を伏せた。傷から離れたいっとき鏡面に白い上に白い帽子をかぶった冴えないまぬけ顔を見たが僕も伏せた。
    的は把握した。
    彼女がガラガラと去ると綺麗に巻かれた包帯をゆるゆると解いた。

    胸ポケットをま探ると人差し指と親指に捕まれて夢じゃなかった僕の夢が登場。
    ポヤポヤと青白い。右手の中指を左肩にあてがい先導役にしながら慎重に火口を目指す。
    ゆるゆると斜面を上り突然の120°傾斜を指1本で見事にクリアし、登頂に成功すると中指の先端で火口を見下ろした。
    ソロりと底を撫でてみる。ねばねばしているが痛みはなかった。思えば僕はジャンキーなのであった。それも相当なワルだ。親の金で堂々と混ぜもののない質のいいブツを買い、その道の手練に打たせているのだ。痛むわけがない。
    中指を一旦下がらせると火口の中心(と思われる)に勢いを付けて青をぶっ刺した。
    だってあれでしょ、その方が間違いないでしょ。恐る恐るなんてやってたら絶対落とすでしょ。半分めり込んだ種を呼び戻した中指でぐぅ~~っと押す。膿んだ肉の中にほぼ抵抗もなく
    入って行き、中指を放すと勝手に肉が閉じた。何事もなく目的は達せられ、あとは当て布を被せ、包帯を巻き直す。だけ・・・
    侮っていた。だけレベルだと侮っていた。
    皆さん、知っていましたか?
    5本の指でやる包帯の巻きなおしはロッククライミングよりも難易度高いんですよ。

    朝。 とくんとくんという何者かの主張によって起こされた。左耳に響き続けるその音はとても心地よい。右手を乗せると包帯の上からでも逞しいものが幾筋も走っているのがわかる。
    どくん!こと更大きく脈打った。
    労わるようにこの子を撫でた。見事な胎動。
    はらはらと 泣いた。

    定時 グチャグチャになった包帯を解く看護師さんの表情が険しくなってゆく。
    病室を出てゆく彼女の足裏が早すぎて白と黒の点滅に見えた。
    微睡んでいると肩に触れる先生が何ともいえない顔をしている。だってそうだ。仕方ない。
    小さな丘の上でふたばがユラユラと揺れているのだから。

    両親が着くや否や先生に阻まれている。
    あ。 先生の背中ってばこんなに広かったっけ。
    何処までが先生で壁なんだろ。
    きっとこの子の話しをしているのに上手く聞き取れない。指先でふたばを愛でる。
    お父さん お母さん 僕の子です。
    だから 引き離さないで・・・
    涙がうまいことこの子に落ちた。

    むず痒くて夢現 腕をかいた。
    その指に柔いものが絡んだり引っこんだりする。再び引っこみかけた時優しく摘むと恐る恐る試し試しクルクルと手首の先迄巻きついてくる。先っぽを撫でてやると手のひらにスリスリと甘える。
    肩の緑がフサフサと笑った。

    完璧な食物連鎖。
    あいつが僕を食べこの子があいつを吸収する。
    日に日にあいつは果樹園の土の上で腐るだけの身分に落ちていた。
    比べこの子はどうだろう。
    今では僕の半身を覆い新緑が生む薫風で此処だけが5月だ。子に愛でられる僕。
    いい子なんて言ったらもう無垢れるだろうか。
    でも言っちゃうもんネ。
    いい子 いい子。

    目が開くと白いシーツの上にぷくぷくとした可愛いおててがふたつ乗っかっていた。サラサラの髪とまん丸の目。それより下は見えない。届かない。
    やぁ 弟よ。息災か?
    「にぃちゃ、コレなぁに?」
    幼子特有の関心突っ走り質問来たぁ。
    コレ、嫌この子はなにぃちゃの子だ。つまりおまえはその年でおじちゃんなのだよ。
    弟の手がわしっと子を掴む。
    質問意味なしの己探索行動。好奇心の赴くまま手前に引っ張る。届かないから無理矢理寄せる。そこで弟思いよりも我が子可愛さが勝った。蔓の隙間からどうにか手を引き出すと弟の手をピシャリ。キョトンと間があってボタボタと涙。上を向いて拡声器にトランスフォーム。
    ワタワタと母さん登場。
    「どうしたの!?」
    「にぃちゃがわるい グス」
    むぅ。
    「にぃちゃがきもちわるい~ あーーん」
    弟よ にぃちゃ凹んでるから。凹んでるから。
    やめて~

    梅雨が来た。
    よく紫陽花に笑顔のカタツムリが描かれたポスターなんかを見かけるがアレはデマだ。
    カタツムリは紫陽花の葉は食わないし、眼球の中だけで目は瞑れない。瞑れないのだ。
    処で肩のアイツは鈴カステラに退化した。
    賞味期限切れの青カビ野郎。
    僕の子は立派に成長。今や僕を包み込みながらも顔だけは避けてくれている。
    いい子に育ちすぎだ。僕が親なのに。
    親と言えば僕の親は何処だろう。
    おじいちゃんおばあちゃん孫は可愛くないんでちゅか。この子は突然金くれなんて言いだしませんよ。


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